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心療内科で見る心・体・アトピーの関係

環境の変化やストレスがきっかけで、アトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略します)が悪化したことはありませんか?
心と体、環境との「関係性」からアトピーを診る心療内科を取材しました。

心療内科ってどんなところ

最近増えている心療内科。どんな病気を診るところなのでしょう。

誤解だらけの心療内科
精神科とはまったく違います

心療内科という診療科は、平成8年に標榜科(病院や診療所が外部に広告できる診療科名)として認可されました。最近では心療内科を標榜する医師も増えてきたので、知っている方も多いのではないでしょうか。「心療」という文字から、「精神科に行くほどではない、その手前の病気を診てくれるところ」と連想する人も多いかもしれません。

後述しますが、実はこれは正しい認識ではないのです。さらに、心療内科医を標榜しているほぼ九十パーセントが精神科医であるといわれ、心療内科に対する誤解を生み出す原因となっています。

実際には、世間の偏見のために「精神科」を受診しづらい患者さんがより受診しやすいよう、「隠れ精神科」として「心療内科」を標榜している場合が多いと言われています。このために医師でさえ、「精神科」と「心療内科」の区別がつかない人が多いという実情があるのです。これでは一般の人が誤解してしまうのも無理がないですね。

体と心を切り離さず
全人的医療を行うのが心療内科

医師には、体の病気を治す「身体科医」と、心の病気を治す「精神科医」がいます。身体科医には、内科医、婦人科医、外科医…など体の部分ごとに、さまざまな専門領域があります。

各科で体の病気を診ていくと、体だけを治そうとしても、治らないことがあります。たとえばアトピーのお子さんが、「お母さんに怒られるとかゆくなる」「好きなアニメ番組をみている間はかゆがらない」、といった話をよく聞きます。このように、症状に心のあり方が関わっている場合、心と体を切り離さず、両方の問題を解決していくことで、体の症状の治療を行う必要があります。

この考え方は「心身医学」といい、ドイツで生まれ米国で発展し、約50年前に日本の身体科医にも取り入れられました。「心療内科」は、「心身医学」を取り入れた全人的医療を行う内科なのです。全人的医療は本来、各科で行うのが理想です。心療内科医になるためには、まず内科全般と消化器や循環器など専門分野について学びます。内科医としてのトレーニングを行い、身体面の医学を基礎としていることが、精神科との大きな違いです。

その上で心と体をつなぐ自律神経系、内分泌系、免疫系の働きを基盤に、患者さんの「心と体」「患者さんと家族」「病気と社会環境」といったすべての「関係性」を診ていくことで治療を行うのです。

心療内科と精神科、同じ内容、同じ治療をするところだと思っている方がほとんどではないでしょうか?

心の病気を治すのが精神科になるのですが、心療内科は心と体を切り離さず、両方の問題を解決していくことになります。

心療内科医になるためには、まず内科全般と消化器や循環器など専門分野について学びます。

内科医としてトレーニングを行い、身体面の医学を基礎としていることが精神科との大きな違いでしょう。同じように思えていて全く違っているのですね。

アトピーと心の関係

アトピーのかゆみの原因は、アレルゲンだけではありません。患者自身の心のありかたや患者をとりまく社会的な環境が、かゆみの原因となることがあります。

アトピーの発症や経過に心のありかたが関わっていれば心身症

心療内科では「心身症と呼ばれる病態を持った患者さん」を診ています。日本心身医学会による定義では、「心身症とは身体疾患のなかで、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」となっています。

つまり、患者さんの心のありかたや、患者さんをとりまく社会的な環境が体の病気の発症や症状の経過に関わっている場合が「心身症」です。うつ病などの心の病気や、心の病気に伴う体の症状は心身症ではありません。

心の病気は、精神科で治療する必要があります。心身症には、定まった症状があるわけではなく、人によって違った形で現れます。患者さんにたまたまアレルギーという素因があれば、アトピー性皮膚炎や喘息という形で症状が出るし、潰瘍ができやすい素因を持った人であれば、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの症状が出ます。人それぞれの体の弱い部分に症状が現れるのです。

掻破行動とアレルギー反応は心の動きと関わっている

病気に心の状態が深く関わっている場合、治療のポイントとなるのは、患者さん自身が心と体の相関関係に気づくことです。心療内科ではそのことに気づいてもらうため、患者さんに催眠を施すことがあります。

ある慢性じん麻疹の患者さんの例をあげてみましょう。厨房の仕事に就職した男性患者さんは、大量の魚を調理するときに、必ずじん麻疹が現れました。

皮膚科で魚エキスのアレルゲン検査をしたところいずれも陰性でした。そこでその患者さんを、深い催眠状態に導入し、厨房で調理しているところを暗示しました。すると調理している仕草を始め、数分で体にじん麻疹が現れ、皮膚を掻き始めたのです。その患者さんは、催眠から覚醒後に驚いて、転職した理由や心の葛藤などについて話し始めました。

近年の基礎医学の研究により、この患者さんのじん麻疹のように、かゆみの素となるヒスタミンや炎症性物質は、抗原がなくても、体内にできることがわかってきました。

脳の働きが自律神経を介して、体の神経末端からさまざまな伝達物質を放出するからです。つまりアレルゲンがなくても、心の動きがアレルギー反応を引き起こすのです。アトピーでは、掻破行動(かゆくてかく行為)が症状を悪化させます。

治療に際しては、掻破行動をいかにコントロールするかがポイントで、この患者さんのように、かゆみを引き起こす心の動きに気づくことが治療の第一歩です。掻破行動がさらに習慣化すると、「掻くことの刺激」が嗜癖化(※)することもあります。

かゆいわけではないのに、なんとなく掻き始め、それが刺激となって止まらなくなる——、掻く刺激に耽溺することで、心が何かから逃避している場合もあるのです。心と体に相関関係があることに気づき、患者さん固有の「掻破行動の意味」を探ることが必要です。

※嗜癖(しへき)…あるもの・行動を特に好き好む癖。

アトピー性皮膚炎の場合、その症状に対して、心のありかたが関わっている場合があります。

心の病気は、人によって「違った形」で、体に症状として現れてきます。

たまたまアレルギーという素因があれば、アトピー性皮膚炎や喘息という形で症状が出ることになるでしょう。

あるいは、潰瘍ができやすい素因を持った人であれば、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの症状が出ます。

人それぞれの体の弱い部分に症状が現れやすいといえ、それが「心」と大きく関係してるのです。

アトピー患者に多く見られる4つのタイプ

心の状態でかゆみが左右されているとしたら、どんな心がかゆみを生み出しているのでしょうか?アトピーの患者さんの代表的な例を元に考えていきましょう。

心の状態でかゆみが左右される場合があり、大きくわけると4つのタイプがあります。

1:心の状態がアトピー症状に関していることに気がつかない。
2:周囲に過剰適応する。「よい子」はストレスをためて症状を悪化させる。
3:感情表現が苦手なためにかゆみで感情を表現する。
4:母子関係がストレスとなってアトピーに影響する、の4つです。

心理的な問題で、かゆみの症状が現れてくる、そしてその症状が異なるのは大変興味深いものです。

タイプ1:心の状態がアトピー症状に関係していることに気づかない

かゆみがひどくなった時やイライラして掻き壊してしまった時、あなたはどんなことを考えていますか?

つらい症状が続けば、心に余裕を持つことは難しくなります。かゆみのために何も考えられないこともあります。症状が重くなればなるほど、自分の心の状態を客観視できずに、心と体の「関係性」に気づくことは難しくなります。

しかしそのことに気づかないままだと、つい無理をして症状が悪化するという悪循環に陥ってしまいます。自分はどんな時にかゆくなるのか?

掻く前後はどんな気持ちでいるのか?冷静に正直に見つめてみてください。症状が悪化しているときの心身の状態や環境を思い返してみると、今までの人間関係や自ら押し殺していた感情と、今の症状との関わりが見えてくるかもしれません。

タイプ2:周囲に過剰適応する「よい子」「いい人」はストレスをためて症状を悪化させる

幼少の頃や思春期にいわゆる「よい子」で反抗期があまりなかった人は、大人になっても温和で怒りなどの感情を表に出さない「いい人」であることが多いようです。特に両親が厳格な家庭で育った人は、両親の愛情を得るために「よい子」として過剰に適応しようと努力し、大人になっても同じように努力する傾向が身についています。

このようなタイプの人は、職場でも感情を抑え、無理な仕事でも頼まれるとつい引き受けてしまいがちです。その結果ストレスや過労を蓄積していきますが、本人は気づいていない場合がほとんどです。人間には光と影の部分があります。

自分の怒り、憎しみ、妬みなどの影の部分を隠さないことも、非常に大切です。光の部分だけを表に出して、影の部分と分離させていると、生きていくのがきつくなるからです。

タイプ3:感情表現が苦手なためにかゆみで感情を表現する

心身医学には失感情症(alexithymia)という言葉があります。心身症特有の病態で、感情がないわけではなく、自分が持っている感情に気づきにくく、感情をうまく言葉で表現できない状態にあります。アトピーの患者さんの場合、怒りや葛藤などのさまざまな感情を無意識にかゆみで表現してしまうのです。

このような傾向をもつ人は、大抵の場合、小さい頃に両親との意思疎通がうまくいっていません。親の愛情が足りないと感じる子どもは、掻くことで親の気を引こうとする場合もあります。そのまま大人になると、感情を言語表現できないことがストレスとなり、アトピーの心理社会的因子となることもあります。子ども時代から自分の気持ちを表現し、親に受け止めてもらうことは、健康な心身を育てるために大変重要であることがわかります。

タイプ4:母子関係がストレスとなってアトピーに影響することがある

乳幼児期

母子のキャッチボールによるコミュニケーションに問題があることが多いヒトが初めて関わりを持つ相手は母親です。

人間の五感に関わる器官で、最初に発達するのは皮膚。人は胎児から皮膚を通して母親とのコミュニケーションを開始しています。コミュニケーションとは、キャッチボールのようなもの。キャッチボールは双方向的で、一方が投げた球を相手が受け取って投げ返します。投げる球は言葉とは限りません。

身振り手振りでも、笑顔や表情だけでも、発達段階に応じたキャッチボールが可能です。乳幼児期は、母親の愛情を受け取ることによって、世界との関わりを少しずつ感じ取り、学んでいきます。母親とコミュニケーションすることによって、将来生きていくためのコミュニケーション能力を身につけ、やがて自立して一人前になります。

しかし、乳幼児期の何らかの要因が母子コミュニケーションの障壁となる場合があります。子どもにアトピーが発症している場合、生活全体がアトピー治療中心となり、皮膚のケアが主なコミュニケーション手段となってしまうと、キャッチボールに問題が生じることがあります。

周囲から十分なサポートが受けられず、アトピー治療と子育てに疲弊した母親が、スキンシップや言葉がけといった十分なコミュニケーションを行えない場合もあれば、かえって過保護になる場合もあります。

思春期—成人

親子関係の問題が社会での人間関係のストレスやアトピーにつながる人にとって乳幼児期の母子関係は、生きていく基礎となるものです。

人間の五感に関わる器官で、最初に発達するのは皮膚。人は胎児から皮膚を通して母親とのコミュニケーションを開始しています。コミュニケーションとは、キャッチボール乳幼児期の母子のキャッチボールが不十分で、子どもが十分に愛情を受け取れなかった場合は、自分の皮膚を掻くことを、母親へのコミュニケーション手段としてしまう傾向があります。愛情が欲しいという意思表示が、掻破行動として表現されるのです。

逆に負い目を感じた母親は、子どもに対して過保護になったり、急接近して関係を修復しようとします。これが思春期や青年期の自立願望の時期と重なると、事態はより複雑です。子どもとしては、今まで渇望していた母の愛情を得られる反面、育ってきた自立心に介入されることに反抗したいという葛藤が生まれ、親子関係がストレスになります。アトピーが重症化し、家にとじこもりがちになると、ますます親からの自立が難しくなることもあります。

こうして成人の段階になっても母子分離がうまくいっていないと、社会に出たときの人間関係全体がストレスになります。子どもは生後数カ月からすでに親から自立しようとする心を持っており、この頃から母子分離は始まっていることを知っておくことも大切です。そこで、海外生活を始めたり、入院して親から離れることで、症状が改善することもあります。

このように、人の成育史をたどっていくと、母子関係がストレスとなってアトピーに影響するという心理社会的因子は、大変根深い問題であることがわかります。

気づきから治療へ

この特集では、心療内科の概要とエッセンスを伝えてきました。心療内科の考え方は、アトピー治療に非常に効果的です。そこから私たちが学べることはどんなことでしょうか?

心の奥に潜む問題に気づくことが治療への道

心療内科からのメッセージとして最重要のキーワードは「関係性」。「心—体」、「患者—家族」、「社会—病気」、などさまざまな関係性を、分離できない全体として診ていくことが、心療内科の基本姿勢です。特に心と体の関係に気づくことが重要です。からだに現れた症状は、心の叫びを病気という形で表現しているのです。

考えてみれば、これは大変ありがたいことです。病気は私たちの日常生活に警鐘を鳴らし、心の奥に潜む問題への気づきを与えてくれるのです。

アトピーには、全人的な治療が必要

心療内科による医療は、心と体を別々に診るという心身二元論的な近代西洋医療とは異なり、心身一如の全人的な医療を目指しています。「全人的医療」とは、病気のみを診るのではなく、病気である患者自体に焦点を当てた医療で、精神・身体・社会・環境・行動といったあらゆる関係性を分離できないものとして捉えています。

アトピー性皮膚炎に関しても、全人的医療という視点は欠かせません。心の問題、症状の現れ方、家族や会社での人間関係、遺伝的要因、生活環境、食事、ライフスタイル、掻破行動のコントロールなど、どの問題も切り離して考えることはできないからです。

心療内科の治療とは

心療内科を訪れるアトピー性皮膚炎患者は、難治性の方がほとんどです。治療は皮膚科医と連携して行っていきますが、治療の一例を紹介します。

関西医科大学心療内科では、最初に絶食療法を行います。入院して面会をストップし、10日間の完全絶食を行い、次の10日間は回復食をとります。もちろん薬も絶ち、身体を白紙の状態に戻すのです。こうして心身ともに揺さぶられると、多くの場合一時的にコルチゾールの分泌が高まり、ステロイドを塗らなくても症状が改善します。

身体をこのような状態にしたうえで、自分の成育史を振り返り、自己洞察に導く内観療法やかゆみをコントロールする認知行動療法、カウンセリングを行い、心の奥底にある根本の問題を探っていきます。必要に応じて皮膚科治療も併行・継続していきます。

冒頭でお話したように、心療内科を標榜しているほぼ九十パーセントは精神科医といわれるのが実情です。残念ながら、多くの患者がアトピー性皮膚炎をしっかり診てくれる心療内科医にめぐり合うことは、現状では難しいと言わざるを得ません。

「心療内科」で治療する場合は、必ず内科医として身体症状を診ることができ、心身医学に基づく治療を行う病院を受診することをおすすめします。理想としては、心療内科的心得のある心身医学に基づいた皮膚科医を探すことではないでしょうか。

アトピー治療は、皮膚表面の問題だけではなく、心の問題も大きく関係してくることがあります。

全人的医療という視点から考えると、家族や会社での人間関係、生活環境、掻破行動のコントロールなどの問題も、心と体の症状と関わってきます。

アトピー治療において、心療内科的心得のある心身医学に基づいた皮膚科を受診することも選択肢として考えると良いでしょう。

監修者プロフィール

中井 吉英 先生 関西医科大学心療内科学講座教授
医学博士

1942年京都生まれ。69年関西医科大学卒業。同年、同大学院医学研究科入学(内科学専攻)。
72年九州大学医学部心療内科入局。
助手、講師を経て86年退職後、同年9月より関西医科大学第一内科講師、助教授を経て、93年12月より現職、現在に至る。
九州大学医学部および広島大学医学部非常勤講師。専門は心療内科学、消化器病学、疼痛学。
著書に『はじめての心療内科』(オフィスエム)などがある。

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