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遺伝子とアトピー

この特集では「アトピー」は、「アレルギーを起こしやすい体質(抗原抗体反応におけるIgEを産生しやすい体質)」とほぼ同じ意味で使用しています。
ただし、アトピー性皮膚炎とは、必ずしもアレルギー反応だけで起きるとは限りません。(IgEの数値が通常値でもアトピー性皮膚炎の症状が出ている場合があります。)「アトピー」体質は、アトピー性皮膚炎に限らず、アレルギー性鼻炎、アレルギー性気管支喘息などの症状に共通するものです。
近年「アトピー」体質というと、アトピー性皮膚炎のことのみを指しているように誤解されがちですが、医学的には「アレルギー」体質とほぼ同義語として使われています。

アトピー性皮膚炎は遺伝的要因と環境的要因:その1

残念ながら、アトピー体質とは親から子に遺伝してしまうものです。 しかしたとえ体質を受け継いでしまったとしても、生活環境をコントロールすることでアトピー性皮膚炎の発症を抑えることは可能なのです。これを知っておくことはとても大切なことです。

親にアレルギーがある場合、子どものアトピーに対して責任を感じてしまうケースや、逆に自分のアトピーの原因が親にあると考えるケースを見受けます。

しかし、アトピー性皮膚炎を引き起こす「力」は大なり小なり、誰しもが持っていて、アレルギー体質の方は、その力が「強い」だけともいえます。

アトピー性皮膚炎が「発症」するかどうかは、後天的な要因、つまり生活や生活環境の要因に大きく左右されることを忘れないようにしましょう。

アトピー体質は遺伝する

アトピー体質が遺伝することはすでにわかっています。統計的には、片親にアトピー体質があった場合、それが子供に出る確率は約3割。両親ともアトピー体質だと約7割の子供がアトピー体質になってしまいます。

これは、親の体質が子供にも遺伝してしまう垂直型の遺伝パターンにかなり近い数値です。

しかし、これだけでは説明できない面もあるのです。たとえば両親や祖父母にはアトピー性皮膚炎がないのに、子供にだけあらわれるというパターンがあるからです。

こうした遺伝の仕方を「劣性遺伝」といいます。アトピー体質の遺伝には、こうしたいくつものパターンが複雑に組み合わさっていると考えられています。

環境・ライフスタイルも発症要因になる

アトピー性皮膚炎は遺伝的要因と環境的要因(※)の両方がからんで発症します。遺伝的要因があっても環境的要因がなければ、ほとんどの場合、発症しないといえますし、逆に遺伝的要因がなくても環境的要因が高ければ、発症するといえます。つまり、環境的要因をコントロールできれば、アトピー性皮膚炎の発症、悪化は防げるのです。

(※)環境的要因とは悪化した生活環境やライフスタイル、薬物使用などをさします。

アトピー体質にかかわる遺伝子を持っていても、必ずしも発症するとは限りません。
また、同じ遺伝子を持っているのに、ある人はアトピー症状を示し、ある人はそうならないという場合も。これは、その人の生活環境や、ライフスタイルがアトピー性皮膚炎の大きな発症要因になっているからです。

たとえば、喫煙や飲酒によって、遺伝子の働きが悪くなったりよくなったりすることがあるのです。現在、アトピー性皮膚炎の患者数は、戦前の約20倍に増えています。

この間、遺伝子は変わっていませんから、現在のアトピー性皮膚炎の患者のほとんどが、大きく変化した環境やライフスタイルの悪化により、発症していると判断できます。

したがって、環境的要因を改善することで、約90%以上の患者のアトピー性皮膚炎の症状を和らげることは可能なのです。

アトピー性皮膚炎は遺伝的要因と環境的要因:その2

そもそも遺伝子とは

個体の維持と種族の維持をつかさどるのが遺伝子の重要な役割です。
遺伝子に刻み込まれた設計図が正常に働いているからこそ、『私は私であることができる』と言ってもよいでしょう。

また、遺伝子の持つ情報は複製されて子孫に伝えられますが、これによって種の同一性が保たれているのです。遺伝子の本体となるのがDNAですDNAは人間の細胞核にある染色体を形成しており、その中の遺伝子が、親から子へと受け継がれます。DNAは図のような二重らせん構造をしています。

この2本の鎖をつないでいるのが塩基といわれる物質。
塩基にはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類があり、AとT、そしてGとCが対になって結びつくという法則があります。遺伝情報はこの4つの塩基の並び方によって成り立っているのです。

DNA

アトピー体質は、なぜ遺伝するのでしょうか?
またアトピー体質の遺伝にはどのような遺伝子がかかわっているのでしょうか?
まずは遺伝子の仕組みとその役割を知っておきましょう。

遺伝情報を担っているデオキシリボ核酸という物質の略称。
A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の塩基からなり、AとT、GとCが対になって結びつき、二重螺旋構造を形成。この塩基の並び方で遺伝情報が示されている。DNAの長い鎖はすべてが遺伝情報ではなく、遺伝子発現の調節やDNA鎖の折れ畳み等の働きをしている部分が含まれている。

染色体

細胞の核にあり、DNAと蛋白質の複合体でできている。 1つの細胞には、2メートルもの長さのDNAが存在。そのDNAを非常に小さな細胞の中におさめるために、ヒストンと呼ばれる蛋白質に巻き付いて存在している。

遺伝子

DNAの長い鎖のうちの一部分で、どんなタンパク質をいつ、どこで、どれだけ作るのかを決めるプログラムの単位。
親から子へと受け継がれる部分。ヒトの遺伝子は約4万種類と推定され、30億個のDNA塩基対のうちの約1%といわれる。

ヒトゲノム

ゲノムとは生命の設計図に相当するもの。
父親と母親からそれぞれ染色体を1セット23本ずつ受け継ぎ、これがヒトゲノムの1セットに相当。ヒトゲノムは、DNAの塩基約30億対でできている。

アトピーに関する遺伝子の研究はいろいろと行われています。しかし、アトピーを決定づけるための遺伝子は、複数の遺伝子が複合的に関わっていると考えられています。

そうした複合的に関わる部分には、睡眠、運動、食事など、毎日の生活の中で、どのような「体づくり」を行っていくのかが大切になってきます。

アトピー性皮膚炎は遺伝的要因と環境的要因:その3

遺伝子と病気の関係

人間のDNAは約30億個の塩基から成り立っています。
近年のヒトゲノム研究によって、この30億個の配列が解明されました。これを個人個人で比べると、300〜1000塩基につき一つずつ同じ位置に個体差があると見られています。

この違いをSNP(スニップ)と呼びます。人間には30億個の塩基があるわけですから、計算すると300万〜1000万ヶ所ものSNPがあり、その違いの組み合わせは膨大な数に。この世に完に同じ遺伝子を持つ人がいないのはそのためです。

SNPは遺伝的な個人差を生み出しているため、ある病気にかかりやすいかどうか、また医薬品の効果や副作用の程度などの指標になると考えられています。

DNAは4種の塩基(A・T・G・C)が対になって並んでいる構造。部分的にAさんとBさんの配列が異なっている箇所がSNPといわれる部分。遺伝子領域では、作られるタンパク質の時期や量、機能に違いを生み出すことがあります。これが、体の個人差、病気の素因などを作っています。
A…アデニン T…チミン G…グアニン C…シトシン

SNPとは?
個人間における一塩基の違いのこと。ヒトゲノム全体で300万~1000万ヶ所、遺伝子の中だけでも数十万ヶ所のSNPがあると推定されている。このSNPが個人差を生み出している。

【参考】優性遺伝子と劣性遺伝子

体細胞の遺伝子は、原則として一対もしくは複数の対立遺伝子からできています。この対立する一対の遺伝子を、仮に「A(優性)」と「a(劣性)」とします。ある人が持つ一対の遺伝子にはAA、Aa(aA)、aaのパターンがあります。

優性遺伝子が一つでもあれば、その人の外面に現れる性質は優性遺伝子が示すものとなりますが、劣性遺伝子は二つ揃って初めて外面に現れるのです。優性遺伝子とは、優秀な遺伝子ではなく、強い遺伝子なのです。そして、劣性というのは、弱い遺伝子であって、決して劣っている遺伝子のことではありません。

ヒトゲノム計画

ゲノムとは、生物が持つ遺伝子全体の総称です。この計画はヒトゲノムの約30億個ある塩基の配列をすべて解明しようというもので、1990年にアメリカの主導でスタート。当初、15カ年計画でしたが、技術が進化したために予定より早い成果が現れ、2001年に90%以上、今年になってすべての配列が解明されました。


理化学研究所の活動内容

理化学研究所遺伝子多型研究センターは、平成11年、政府のミレニアム・ゲノム・プロジェクトの中枢機関として設立。
このプロジェクトは、遺伝子の個人差と病気へのかかりやすさの関連を解明することと、生活習慣病などの予防や治療方法をオーダーメイド医療のレベルまで高めることを目的としてスタート。
遺伝子多型研究センターでは、特にSNPを体系的に解析し、病気と関連している遺伝子をつきとめる研究をしています。

アレルギー体質関連遺伝子チーム

白川太郎教授をリーダーとするこのチームは、気管支喘息やアトピー性皮膚炎を中心に、アレルギー疾患に関連している遺伝子を発見し、科学的根拠に基づいた効果的な治療方法を実現させることを目的にしています。
関連遺伝子が発見されれば、生活環境を改善することで発症を遅めたり、程度を軽くすることが可能に。現在は、喘息患者とアトピー性皮膚炎の患者のデータを解析中。

ヒトの個体差に関する遺伝子の違いは、それほど多くはないと言われています。実際、ヒトとチンバンジーのDNAの違いは1.3%に過ぎない、という研究報告もあります。

「アトピー遺伝子」の研究最前線

遺伝子を解析してそれを医学の発展に役立てようとする試みは、国際的な願望です。なかでも難しいとされているアレルギー疾患で大きな発見がありました。

アトピー性皮膚炎には、遺伝子が複雑に関わっている

アトピー体質が単純に垂直遺伝するとしたら、両親ともにアトピー体質の場合、子供もそうなる確率は計算上では5割となります。

しかし、実際には、両親がアトピー体質だと7割の子供がアトピー体質になっているわけですから、計算上の数値よりも高くなっています。
これは単純な遺伝以外に複雑な要因がかかわっているから。

アトピー体質の遺伝は単純には説明できないのです。実際にアレルギーテストをしてみると、複雑な事例がたくさん出てきます。たとえば、親子ともにアレルギー反応があるのに、親はダニの抗体を持っていて、娘は猫の抗体はあってもダニの抗体は持っていないというような例がたくさんあるのです。

こうしたことが起きるのは、アトピー体質の遺伝には、多くの遺伝子が関与しているからだと考えられています。
一つの遺伝子だけでは説明できません。ですから、たとえ三世代にわたる家系図があったとしても次の子供がアトピー性皮膚炎になるかどうかは予測ができないのが現状です。

ぜんそくの研究からアトピー性皮膚炎の遺伝子解明へ

2002年、理化学研究所の遺伝子多型研究センターアレルギー体質関連遺伝子研究チームは、アトピー性皮膚炎と関係が深いと思われるSNPの存在を確認しました。このようにアレルギー疾患でSNPを特定したのは世界で初めてのことです。

でも、実はこの発見は、ぜんそくの遺伝子を解明しようとする研究の中から誕生したものでした。この研究は、ぜんそくの患者とそうでない人の遺伝子のSNPを、それぞれ10万ヶ所ずつ調べることによって、両者の差を統計学的に明らかにしようというもの。

まず100人の患者のSNPを調べることから始められ、最終的には1000人を超えるぜんそく患者のSNPを調査しました。ハイテク機器を利用しても解析に1年間かかる大変な研究の結果、ぜんそくとの関連が深い30〜40個のSNPが見つかったのです。

そしてこの実験には副産物がありました。この実験で最初に調査対象となった100人のうち、ちょうど半分の50人がアトピー性皮膚炎を併発していました。

これによってぜんそくでアトピー性皮膚炎を併発している子供とそうでない子供の比較ができたのです。この結果、ぜんそくでアトピー性皮膚炎を併発している子供のSNPが解析でき、アトピー性皮膚炎の遺伝子研究は大きく前進しました。

ぜんそくの研究からアトピー性皮膚炎の遺伝子解明へ

2002年、理化学研究所の遺伝子多型研究センターアレルギー体質関連遺伝子研究チームは、アトピー性皮膚炎と関係が深いと思われるSNPの存在を確認しました。このようにアレルギー疾患でSNPを特定したのは世界で初めてのことです。

でも、実はこの発見は、ぜんそくの遺伝子を解明しようとする研究の中から誕生したものでした。この研究は、ぜんそくの患者とそうでない人の遺伝子のSNPを、それぞれ10万ヶ所ずつ調べることによって、両者の差を統計学的に明らかにしようというもの。

まず100人の患者のSNPを調べることから始められ、最終的には1000人を超えるぜんそく患者のSNPを調査しました。ハイテク機器を利用しても解析に1年間かかる大変な研究の結果、ぜんそくとの関連が深い30〜40個のSNPが見つかったのです。

そしてこの実験には副産物がありました。この実験で最初に調査対象となった100人のうち、ちょうど半分の50人がアトピー性皮膚炎を併発していました。

これによってぜんそくでアトピー性皮膚炎を併発している子供とそうでない子供の比較ができたのです。この結果、ぜんそくでアトピー性皮膚炎を併発している子供のSNPが解析でき、アトピー性皮膚炎の遺伝子研究は大きく前進しました。

アレルギー治療の未来

アトピー性皮膚炎関連遺伝子が発見されれば、アトピー性皮膚炎の遺伝子治療への道は開けるのでしょうか。
遺伝子時代のアトピー性皮膚炎治療の展望を知っておきましょう。

アトピー性皮膚炎の遺伝子治療は時期尚早

アトピー体質とアトピー性皮膚炎の発症には何十個ものSNPがかかわり合っていると考えられています。
しかし、もしすべての関連SNPが解明されたとしても、遺伝子治療がすぐに可能になるわけではありません。遺伝子治療では正常に働く遺伝子を正常な組織の正常な場所に送り込み、正しく働くようにコントロールできなければ意味はありません。

現段階では、少なくとも21世紀中に遺伝子治療が可能になることは期待できないと考えられています。
ただし、最重症患者のもつどれかひとつのSNPが、劇的な症状の発症に関わっているとわかっている場合に限っては、遺伝子治療も有効かもしれません。
しかし、遺伝子が複雑にからまって起きる生活習慣病において、遺伝子治療は現実的にはまだ無理です。ライフスタイル要因を改善するほうがより高い効果を期待できます。

環境・ライフスタイルと遺伝子との相関

ではなぜアトピー体質の遺伝子を調べるのでしょうか。同じようにアトピー性皮膚炎を発症している人でも、個々のSNPはみんな違います。しかし、部分的には同じであることは十分可能性が高いのです。

たとえば3つのSNPの配列が同じ人が二人いたとします。一人はタバコを吸い発症しており、もう一人はタバコを吸わなくて発症していない。

遺伝子の研究でこれが突き止められれば、この人と同じSNPの配列を持った人は発症要因となっているタバコを吸わなければ発症しないということになります。

同じように調べると、ペットを飼ってもアトピー性皮膚炎にはならないSNPの配列がわかるようになる可能性もあります。ここに遺伝子を調べる意味があるのです。

つまり、このように遺伝子の分類ができると、このパターンの人にはこの治療法が有効であるようだとかこのパターンの人にはこのような生活改善が効果的だなど、データが整理されるようになります。

そうすることで極力無駄の少ない効果的治療の選択が可能になり、より健康管理の確実性が増すわけです。

遺伝そのものはコントロールはできませんが、近い将来、遺伝子の解明によって、発症の予防や症状の改善がより効果的に行われるようになることが期待されています。

アトピーの遺伝Q&A

Q:食品添加物などの化学物質によって遺伝子に傷がつくと病気になると聞きましたが、この遺伝子の傷というのは遺伝するのでしょうか?

DNAには二種類あります。ひとつは体細胞にあるもので、もうひとつは精子や卵子にあるものです。精子や卵子の細胞が傷つかない限り次世代に伝わることはありません。食品添加物によって遺伝子に傷がつき、本人自身の症状が悪くなることはありますが、この店は通常では遺伝しないものと考えてくださっても大丈夫です。

Q:父・母や双方の祖父母にはアレルギー症状やアトピー性皮膚炎はありませんが、私はアトピー性皮膚炎です。遺伝的にはどう考えたらよいでしょうか?

劣性遺伝でしたらそういうことがあってもおかしくありません。ただし、アトピー性皮膚炎と遺伝との関係は複雑です。単純な劣勢遺伝ではありませんし、親がアトピー性皮膚炎だから子も同じというような単純なものでもないのです。残念ながら、どのSNPがアトピー性皮膚炎にかかわっているかがわかるまでははっきりとしたことは言えないのです。両親や祖父母がアトピー性皮膚炎ではないから自分は大丈夫だと、安心することはできないものだとお考えください。

遺伝子の研究は、直接の治療に対するものだけではなく、こうした「予防」に関わる因子を見つける研究にも役立つのですね。

アトピー性皮膚炎の遺伝と発症

人間の遺伝子は変わらないのに、アトピー性皮膚炎の患者は激増しました。生活環境が大きく変化したことによって、それまで発症しなかったような人までアトピー性皮膚炎を発症したのです。

戦後に増えた、アトピー性皮膚炎

アトピー体質が遺伝することはすでにわかっています。統計的には、片親にアトピー体質があった場合、それが子供に出る確率は約3割。両親ともアトピー体質だと約7割の子供がアトピー体質になってしまいます。

これは、親の体質が子供にも遺伝してしまう垂直型の遺伝パターンにかなり近い数値です。

しかし、これだけでは説明できない面もあるのです。たとえば両親や祖父母にはアトピー性皮膚炎がないのに、子供にだけあらわれるというパターンがあるからです。

こうした遺伝の仕方を「劣性遺伝」といいます。アトピー体質の遺伝には、こうしたいくつものパターンが複雑に組み合わさっていると考えられています。

生活環境とライフスタイルの変化が、アトピー性皮膚炎の急増の原因

つまり、90%以上の人たちは、昔なら発症しなかった人たちです。環境やライフスタイルが変化したために発病したということですから、昔と今の環境やライフスタイルの違いを検証すれば、発症の原因をつきとめ、それを抑えることができるはずです。

50年前の生活を考えてみましょう。変わったことはたくさんありますが、まず住居が木造の家から鉄筋のマンションに変わりました。

食生活も大きく変わりました。味噌汁を飲み、ご飯を食べ、魚を食べていた生活から、肉中心の食生活に変わりました。なによりも、以前はのんびりと暮らしていたのに、現在はまさにストレス社会。

これは大きな変化です。また、50年前にはなかったステロイド剤による副作用によって、症状をさらに悪化させてしまった人も多いでしょう。こうした生活の変化が、この19%に現れている可能性は十分にあります。
この要因を特定できれば、患者の数を減らしていけるはずなのです。

アトピー性皮膚炎の症状がある方は、そうでない方と比べて、決して「不健康」ということではありません。

今の社会環境そのものが、生体機能に影響を与えている場合、一つの「警告信号」的な役割で、「過敏な症状」として現れることもあります。

アトピー性皮膚炎の症状がある方は、そうでない方と比べて、決して「不健康」ということではありません。

アトピー性皮膚炎を発病・悪化させないための How to

戦前の生活環境に戻すことはできないにしても、そこから何かを学び、現在の生活に活かすことで、アトピー性皮膚炎発症者の数をもっと少なくすることができるはずです。
当時と今の生活環境の変化をふりかえって、改善できることから始めてみましょう。

発病・悪化を防ぐためには

遺伝子が同じなのに、50年前には発症しなかったのはなぜでしょうか。
それは、環境やライフスタイルの変化が、ある特定のSNP※に影響を及ぼしたからだと考えられます。たとえば大気汚染という環境要因で発症してしまうSNPの並びを持っている人でも50年前、空気がきれいだった時代なら発症しなかったということです。
(海外旅行で環境のよい場所に行くと、調子がよいという人などは、そのようなSNPを持っているのかもしれません)。
ですから、発症や悪化を防ぐためには、そうした現代の環境やライフスタイルをコントロールすることが必要です。その方法を、具体的に考えてみましょう。

※SNP(single nucleotide polymorphism 1塩基多型)とは?
個人間において、DNAの配列が異なっている部分のこと。DNAは4種類の塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)が連なってできていますが、その配列は、人によって300~1000万カ所の部分で異なり、その1塩基の違いをSNP(スニップ)といいます。遺伝子領域にあるSNPは、数十万ヶ所といわれ、作られるたんぱく質の時期や量、機能に違いを生み出すことがあります。これらの個人差程度の違いであるSNPが複雑に関連して、生活習慣病などの遺伝的要因として関わっていることが分かってきています。(詳細は「あとぴナビ」9月号の第1特集「遺伝子とアトピー(前編)」をご覧ください。)

1.住環境のコントロール【建材・空気を改善する】

住環境は大きく変化しました。たとえば、木造の家から鉄筋のマンションへの移行が挙げられます。

畳の生活からカーペットの生活に変化。気密性が高くなったことによる、建材などから発せられる化学物質の影響も心配されます。屋外ですら、大気汚染が進行しています。家を替えるのは大変なことですから、換気などできることから始めて。

ダニやカビ対策を徹底することは、それに反応する体質の場合は有効です。また、空気汚染に関しては空気清浄機を使うなどして対応しましょう。

あとぴナビ「化学物質過敏症とアトピー」で詳く述べておりますので、ご参照ください。

2.食生活のコントロール【脂質、食品添加物に注意する】

食生活も西洋風に大きく変化しました野菜・魚中心から肉中心へ変わり、脂肪の摂取が増え、炭水化物の摂取量が減少。食品添加物が多くの食品に含まれるようになり、昔よりお菓子・加工食品類も増えています。

野菜・魚を食べるように心がけ、体が酸化しやすい飽和脂肪酸の摂取を減らし、食品添加物を含まない食材を取るように注意しましょう。

※食品を買うときは、添加物にも注意しましょう。

3.ライフスタイルのコントロール【ストレス解消と運動・睡眠】

ストレス社会は、何も大人だけの問題ではありません。塾や習い事、受験の心配など、子供たちにも多くのストレスがあるのです。

また、安全な遊び場所が減ったことやテレビゲームの普及などで、子供たちの運動量は昔より減っています。さらに子供も夜型の生活になっています。適度な運動と十分な睡眠は、ストレス解消の大きな助けとなります。

ストレスをためない生活をさせるように心がけましょう。

4.その他【抗菌グッズや洗剤など】

子供の周りの環境を整えようとするあまり、過剰なまでに抗菌グッズを使うのは、免疫バランスの点でも、逆効果になる場合があります。昔は、抗菌グッズなどはありませんでしたが、発症したのは現在の20分の1でした。

過剰なまでの抗菌グッズの使用が、必ずしも環境改善に効果があるとはいえません。食器洗いの時に使用する洗剤にも十分注意する必要があります。

抗菌グッズは体にやさしい?
過剰な殺菌は逆効果も

体の免疫は2種類のヘルパーT細胞と呼ばれるリンパ球が司っています。細菌やウィルスなどを攻撃するTh1型と、カビやダニなどに反応し、アレルギーを起こすTh2型があり、これらは免夜全体のバランスを保つため、互いにけん制しています。細菌やウィルスに対する免疫(Th1型)が働くときは、アレルギーの免疫(Th2型)は抑えられます。抗菌剤の多用によって、生活環境を清潔にしすぎることは、Th1型細胞の増殖を抑制するため、結果体のアレルギー免疫を充進することになり、アレルギー疾患増加の原因ともいわれています。このことからも、抗菌グッズの多用には、注意が必要なのです。

遺伝子研究の課題とアトピー性皮膚炎治療の将来

環境に対する適応力の個人差にも、遺伝子が関わっています。同じ環境にいながら、発症する人としない人がいるのはそのためです。
遺伝子研究が進歩すれば、このメカニズムが解明できると期待されています。

発症の予防が大切

たとえアトピー性皮膚炎の遺伝子を持っていても、生活環境やライフスタイルをコントロールすることによって、発症を防ぐことは可能です。

発症を防ぐことができさえすれば、たとえ遺伝的素因を持っていても、アトピー性皮膚炎の苦しみを味わなくてもすむのです。遺伝子研究の急速な進化によって、理論上では生活改善によるアトピー性皮膚炎の発症予防は可能になりました。

しかし、残念なことにまだ、遺伝子のどの部分がアトピーと関係しているかは未解明です。発症や悪化を予防するために、食生活や住環境などあらゆる点に注意を払わなくてはならないのは、そのためです。

遺伝子研究が進めば、こんな治療も可能になる

確かに、現時点ではまだ未解明なことが多いのですが、アトピー関連遺伝子解明の時はもうすぐそこまで来ています。

現在の研究課題は、SNPのパターンを分類しそれらが環境要因とどうかかわっているかを調査すること。

これは労力のかかる研究ですが、大きな成果が期待されています。この研究によって、データが整理されれば、無駄のない効果的な治療法が簡単に選択できるようになります。このパターンの人はこのような生活改善が効果的であり、このパターンならこの治療法が有効だということがわかるようになるからです。

また、このパターンならば発症要因はこれだと具体的に指摘できるので、発症を事前に防ぐことも、よりたやすくできるようになるでしょう。この研究はすでに動き始めており、未来のアトピー性皮膚炎の治療への応用が期待されています。

アトピー性皮膚炎の発症 Q & A

Q:アトピー性皮膚炎を含め、すべての病気は遺伝が関係しているそうですが、そうだとすると何をしても無駄なのでしょうか?

確かに、すべての病気には遺伝が関係しています。しかし、何をしても無駄だということはありません。

病気の遺伝子を持っていても、環境やライフスタイル要因を上手にコントロールすることで病気にならないようにすることもできます。

将来的にはSNPを調べ、どんな環境やライフスタイル要因がその病気の症状を悪化させるのかをあぶり出してゆけば、その要因を遠ざけることで、今の症状を改善することも可能です。
ですから、絶望することはまったくありません。

Q:付き合っている彼がアトピー性皮膚炎です。結婚を考えていますが、子供のことが不安です。子供にもアトピー性皮膚炎が出るのでしょうか?

不安に思われるのは仕方ないことかもしれません。 片親がアトピー性皮膚炎の場合、その体質は子の3割に遺伝するという数値が出ています。

つまり、10人子供を生んだら3人、5人で1人です。これを高率だと思うか低率だと思うかは、人それぞれでしょうが、決して高い数値ではないと思います。誰もが何らかの病気の遺伝子を持っているわけですから、もしかしたらあなたご自身も高血圧など、他の生活習慣病の遺伝子を持っているかもしれません。

アトピーに関する遺伝子を持っていても、生活環境をよくすることによって発症しないようにすることも可能ですし、発症したとしても、克服することは十分可能なのです。問題は誰でもがそのような病気の原因を持っていることを認めることで、気にしても仕方ないこととお考えになったほうがよいのではないでしょうか。

また、時代とともに新しい治療・予防法も出てきますので、決して難治ではないと考えるべきでしょう。

アトピー性皮膚炎という疾患は、「治癒」しない不治の疾患ということはありません。もちろん、「治癒」の状態と、症状が現れていない「寛解」の違いはあるかもしれません。

しかし、アトピー性皮膚炎が発症する「素因」は遺伝的に受け継がれても、アトピー性皮膚炎が発症する「要因」は、後天的な生活の中にあることを忘れてはならないでしょう。

監修者プロフィール

白川 太郎 先生 京都大学大学院医学研究科教授

1955年生まれ。京都大学医学部卒業後、同大学胸部疾患研究所付属病院に入局。
その後、高槻赤十字病院、大阪大学医学部・オックスフォード大学医学部講師を経て、ウエールズ大学医学部大学院実験医学部門助教授。
2000年4月より現職。理化学研究所遺伝子多型研究センターアレルギー体質関連遺伝子研究チームのリーダーとして研究を推進している。

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