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制御性T細胞がかゆみを消す

アトピー性皮膚炎の発症や慢性化のメカニズムは、未だ不明な部分が多く、その全体像は明らかになっていません。

アトピーのメカニズムを全身レベルで解明する

例えば、アトピーの人にはIgEと呼ばれるアレルギー反応を起こす抗体が多い、IgE抗体がマスト細胞(肥満細胞)と結合してかゆみの原因となるヒスタミンやロイコトリエンを分泌する等々、個々の免疫細胞の機能については様々なことがわかっています。

しかし、皮膚炎の悪化時にそれぞれの免疫細胞はどこに集まっているのか? 皮膚に多いのか?リンパ節に多いのか?ということは分かっているのですが、これらの細胞がどこから来てどこに行って、何をしているのか? また炎症が治まるときに免疫細胞はどのように動いているか? といった全身レベルでの研究はほとんど進んでいませんでした。

リンパ節(図中の緑色の点)はリンパ管(図中の緑色の線)でつながっている。血管→皮膚などの組織→リンパ管→リンパ節→リンパ管→血管、 あるいは、血管→リンパ節→リンパ管→血管というように、免疫細胞は全身を巡って体を守っている。

アトピーの治療法が飛躍的に前進する!?

今回の研究でわかったことは、「皮膚の炎症が治まるときに、制御性T細胞(免疫を抑制する働きを持つT細胞)が大量に皮膚からリンパ系に移動している」こと。皮膚の炎症が治まるときに、体の中で免疫細胞がどのように活動しているのかが、具体的にわかったのです。

この発見の画期的なところは、今後のアトピー治療を大きく前進させる可能性を持つことです。これまで皮膚科での主な治療は、ステロイドなどの免疫抑制剤で体の免疫反応を抑制して炎症を抑えることでした。これはいわば、個々の患者さんの体内の状態(免疫細胞の種類、数、働き方など)の把握がしっかりできていない状態でも、とりあえず免疫力を下げて炎症を抑えていたということ。

しかし、今回の成果を皮切りに研究が進めば、薬を使うタイミングや止めるタイミング、炎症を抑えるのに効果的な薬の分量など、症状の慢性化や薬のリバウンドを防ぐ治療法が期待できるでしょう。アトピー性皮膚炎を治すために、ステロイド剤などの薬を、うまくコントロールして使うことができるようになるかもしれません。

制御制T細胞の研究が進めば、免疫を抑制するシステムに対する薬剤の影響を最小限にとどめることが可能になるかもしれません。

薬物による治療は、長期連用による問題点も多いわけですが、その部分のリスクが解消されるのであれば、使用する患者にとっても大きな進歩となるでしょう。

免疫システムが細菌、ウイルスから身を守る

制御性T細胞のお話をする前に、人間の体が外部の異物から身を守るしくみ、免疫のしくみを簡単におさらいしておきましょう。 外部からの異物に対して、私たちの体は複数の防御機構を備えています。その第1段階は、物理的なバリアー機能。

皮膚、鼻などの上気道、気管支などの下気道、腸管などの粘膜は、直接外部と接触している部分です。これらが直接、外部からの異物侵入を防ぐバリアーの役割を果たしています。 これらのバリアーを粘膜上皮細胞といいますが、病原性の強い細菌やウイルスが、粘膜上皮細胞に感染し侵入してくると次の対策が必要になります。細胞組織に侵入した異物から身を守るための第2段階・第3段階は、免疫の働きによるものです。

自然免疫

人体に侵入した細菌やウイルスの多くは、マクロファージやナチュラルキラー細胞などの細胞、補体やリゾチームなどのたんぱく質に食べられたり排除さ れたりします。体内に発生したがん細胞などの異常事態も常に監視され、病気の発生が食い止められます。これらの防御システムを自然免疫とい います。自然免疫は、人体に最初から備わった免疫機能。初めて出会った相手を敵と認識し攻撃します。

自然免疫を突破する強敵が侵入してくると、 人体は獲得免疫という次の防御システムを働かせます。 

獲得免疫

はしかやおたふく風邪は、1度かかると免疫力がつき2度かかることはありません。こ れが獲得免疫の働き。獲得免疫では、1度目は病気を発症させますが、そこで敵を覚 えてしまい、2度目以降の細菌・ウイルスの侵入を効率よく防ぎます。様々な抗原 (細菌やウイルスなど)に感染することで身につく免疫で、一般的に「免疫」といわれる のは、この獲得免疫のことです。 獲得免疫は、さらに細胞性免疫と液性免疫 に分けられます。

細胞性免疫

キラーT細胞が中心となり、ウイルスに感染した細胞やがん細胞などを細胞ごと殺します。

液性免疫

体に侵入してくる抗原(異物、細菌など)に対抗する抗体(IgGやIgEなどの免疫グロブリン)を作り出し、抗体は抗原とくっつき体から抗原を除去します(抗原抗体反応)。

これらの免疫システムを司っているのは、白血球と呼ばれる血液中の細胞たち。
白血球の仲間には、 マクロファージ、リンパ球(T細胞、B細胞など)、顆粒球などがあり、それぞれが巧妙に働いて体を守り健康を維持しています。 次に紹介する制御性T細胞も白血球の仲間で、免疫システムを支える重要な役割を担っています。

制御性T細胞って何?

免疫細胞が免疫力を下げる?

制御性T細胞は、免疫系の活動を抑制する働きを持っています。ここで「えっ? 免疫を抑えるの?」と不思議に思った人もいるでしょう。免疫は体を守るしくみだから、それを抑制してしまう細胞があるというのも妙な話ですね。でも、自己免疫疾患という病気を聞いたことがありませんか?

慢性関節リウマチや多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病などの自己免疫疾患は、自分の免疫系が自分の身体組織を攻撃することが原因とされています。免疫系の様々な指令を出す細胞をヘルパーT細胞といいますが、この細胞が自分の体を敵とみなし、攻撃をしかけるよう命令してしまうことがあるのです。

制御性T細胞は免疫系の調和を図る

実はどんな人の体にも、自己免疫疾患を引き起こす危険性のある免疫細胞が存在しています。そして免疫系には、この危険な免疫細胞から身を守るための様々な防御手段が備わっています。その手段の一つが、制御性T細胞による免疫抑制。制御性T細胞は、ヘルパーT細胞など他のT細胞と同様に胸腺で成熟し、その後リンパ系や、腸、皮膚などの末梢組織にも広がっていきます。さらに、免疫応答が起こったときにも制御性T細胞が誘導されることが、最近わかってきました。

制御性T細胞の研究が進んできたのは、ここ10年程度の話。不明点も多いのですが、腸内の善玉菌を守ったり、妊娠を維持するなど、免疫系全体の調和のための重要な役割を持つ細胞として注目されています。とりわけ自己免疫性疾患やがんの新たな治療法などに役立つのではないかと期待されています。

理化学研究所の実験

目的

  • 正常時と皮膚炎症時で、皮膚からリンパ系にどの種類の免疫細胞が、いつ、どれくらいの数だけ移動しているのかを調べる。
  • 免疫応答制御における移動した免疫細胞の役割を調べる。

実験1

【方法】
  • 紫色の光を当てると、緑色から赤色に変色する光変換蛍光たんぱく質「カエデ」を導入した「カエデマウス(実験用マウス)」を開発。
  • カエデマウスの腹部の毛をそり、紫色の光を当て、皮膚組織や皮膚に存在している免疫細胞を赤色にマーク。
  • 24時間後、赤色の免疫細胞が移動した先のリンパ節(所属リンパ節:※1)を解析。
  • 正常なマウスと接触性皮膚炎のマウスで同じ実験を行い比較。
※1:所属リンパ節:皮備など末のある国の細胞は、特定のリンパ節(一般的には近くの)に移動する。このリンパ節を所属リンパ節と呼ぶ。
【結果】
資料提供:独立行政法人理化学研究所
発症・アレルギー科学総合研究センター自己免制御研究グループ

移動した免疫細胞の割合

正常なマウス
樹状細胞とT細胞が約半数ずつ、T細胞中の約5分の1が制御性T細胞だった。

接触性皮膚炎のマウス
制御性T細胞以外のT細胞が約5倍増加、制御性T細胞は約20%増加。
(移動したT細胞の約半分を制御性T細胞が占めるようになった)

実験2

【方法】
資料提供:独立行政法人理化学研究所
発症・アレルギー科学総合研究センター自己免制御研究グループ
実験用の接触性皮膚炎モデルマウスでは、炎症は時間が経過すると自然に治まる。そこで、通常の接触性皮膚炎モデルマウスと、全身の制御性T細胞を4分の1に減らしたマウスに皮膚炎症を起こし、炎症の経過を比べた。

【結果】

通常の接触性皮膚炎マウス(〇:コントロール群)は、時間の経過と共に炎症が治まった。制御性T細胞を減らしたマウス(●:制御性T細胞を減らした群)では、皮膚炎は治まらなかった。

アトピー性皮膚炎に対する免疫機能の異常は、例えばIgEを作り過ぎること、つまり免疫機能の働きが高すぎることが問題と考える方も多いようです。

しかし、実際には、免疫機能を抑える力が、健常な人と比べて低いため、結果的にアトピー性皮膚炎の炎症につながる抗体が作られています。

アトピー性皮膚炎の方の「免疫の異常状態」とは、免疫機能が高いのではなく、低いことに問題があるということですね。

実験からわかったこと

以上の実験から、「皮膚炎症時には制御性T細胞の皮膚からリンパ節への移動量が増える」こと、「皮膚炎症の終息には制御性T細胞が必須である」ことがわかりました。さらに、制御性T細胞を直接皮膚炎を起こしたマウスに注射したり、様々な方法で実験を広げていくことにより、以下のような結論に至りました。

この実験が意味すること

今回の実験において、皮膚の炎症を制御するためには、どのタイミングで、どのような性格を持った細胞が、皮膚からリンパ節に移動するかを知ることが重要であることが示されました。

皮膚の炎症が治まるときに、免疫抑制活性が強い制御性T細胞が皮膚からリンパ節に戻ってくることがわかれば、それを考慮して炎症が治癒するプロセスを見ることができるようになります。治ってくるときに重要な細胞がわかれば、その細胞のケアができるようになるでしょう。そこまでわかってくれば、薬を使っていい時期、薬を止めるべき時期などもわかるはずです。

リバウンドの起こり方が解明されるかもしれない

アトピー性皮膚炎の治療でステロイド剤を使う際、薬の作用によってどんな免疫細胞が消えるかなど、ある程度のことはわかっています。しかし、薬によって安定したように見える皮膚の状態も、全体的な免疫細胞の状態を把握していないので、実際はすごく不安定な状態と言わざるを得ません。

ステロイド剤を止めたときに、皮膚からリンパ節にどんな細胞が来ているのかが解明されれば、リバウンドの起こり方がわかり、ステロイド剤の使い方をコントロールできるかもしれません。現状ではそこまで解明されていませんが、この研究を進めることによって、近い将来にはわかる日がくるでしょう。

ステロイド剤やプロトピック軟膏など、免疫を抑制することでかゆみを抑える薬剤は、皮膚の状態を安定に保つように見えるかもしれません。

しかし、本来の免疫活動に対して「抑える」働きを続けることで、結果的に、皮膚の表面は落ち着いていても、免疫システム自体のバランスを崩すことがあります。

アトピー性皮膚炎の方は、感染症の問題を抱えることが多いのですが、これも、この免疫システムのバランスを崩していることが原因といえるでしょう。

全体をみわたした免疫系の理解を目指して

人間の体、そして免疫系は、全体の関係をしっかり考慮しながらみていく必要があります。これまでの研究では、細分化された細胞レベルの解析は発展してきました。しかし、生物個体レベルでの免疫系の全体像は未だによくわかっていません。

今回の制御性T細胞の実験のように、免疫細胞が「いつ・どこで・どのように・どれだけ」働いているのかという視点の研究が進めば、アトピー性皮膚炎やアレルギー疾患の克服に関わる成果のみでなく、免疫系全体のメカニズムが解明される日が来るのではないでしょうか。

監修者プロフィール

戸村 道夫 先生 独立行政法人理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター 自己免疫制御研究グループ 上級研究員

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