今年もジメジメした梅雨の季節になりました。この時季、そしてこれから本格化する蒸し暑い夏に、アトピー性皮膚炎の人に多く見られる感染症にはどういうものがあるのでしょうか。感染症にかからないための注意点、そして、もしもかかってしまったらどうすればいいかなどを探っていきましょう。
夏に向けてアトピーを悪化させないために知っておきたい心得【前編】
感染症にかかってしまったら?
湿度も気温も高くなる梅雨は、細菌やカビが繁殖しやすい季節。 アトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略します)を発症している場合、皮膚表面のバリア機能が壊れていたり、弱くなっていたりして、外部から細菌やウイルスが侵入しやすい状態になっています。梅雨が明けても日本の夏は高温多湿。
今、そしてこれからの時季、アトピーの方は感染症にかかりやすい状態にあるのですね。感染症は、アトピーの治癒を遅らせてしまう場合もありますので、かかってしまったら、適切に対処したいもの。
感染症における注意から、かかったときの対処法まで、しっかり確認していきましょう。
梅雨から夏にかけて気をつけたい感染症は?
この時季に気を付けたい感染症として一番に挙げられるのは、黄色ブドウ球菌(抗生剤耐性の黄色ブドウ球菌であるMRSAを含む)をメインにした「細菌感染症」です。いわゆる「とびひ」状態になるもので、汗ばむ季節になってくると増え始めます。
初期症状としては、黄色い滲出液を伴ったジュクジュクした病変が皮膚に現れます。見た目も痛がゆさもアトピーと似ているため、「アトピーの悪化かな?」と見過ごされてしまうケースが多いようです。
ジュクジュクの範囲が増える、もしくはなかなか退かない。そういう状態になったら、「感染症」を疑いましょう。
また、季節を問わず多く発症している感染症に「単純ヘルペス感染症(以下、ヘルペスと略します)」があります。アトピーの方が警戒したい感染症の代表的なもので、こちらは細菌ではなくてウイルスが原因の感染症です。
水疱(水ぶくれ)、水疱を掻きこわしてできるただれ(びらん)、そして隆起性病変の3つが肌表面に混在するのが、ヘルペスの見た目の特徴です。ちなみに、ヘルペスの重いものは「カポジ水痘様発疹症」(略して「カポジ」)と呼び名が変わります。
いつもと違って皮膚の状態がなんだかおかしい、急に悪化したようだと感じたら、細菌感染症もしくはヘルペスにかかっているかもしれません。皮膚科、アレルギー科を受診することをお勧めします。
(受診の際は、後述「感染症!かしこい医師の選び方」をご参照ください)
そして、梅雨時季といえば、気になるのが「カビ」です。カビがアレルゲンとなりアトピーを悪化させることももちろん考えられます。この場合は感染症云々ではありませんが、アトピーの悪化を防ぐためにも、浴室など、湿気のたまりやすい場所は乾燥を心がけ、カビには注意をするほうがいいと知っておきましょう。
梅雨はジメジメとして不快で、家に閉じこもりがちになり、気分も落ち込む――。そうした精神的な暗さはできるだけ排除するようにしてください。何の疾病においても、気分の落ち込みやストレスが治癒にいい影響を及ぼすことはありえません。
梅雨の時期に気を付けたいのは「細菌感染症」です。いつもと違って皮膚の状態が急に悪化したようだと感じたら、細菌感染症もしくはヘルペスにかかっているかもしれません。皮膚科、アレルギー科を受診しましょう。
カビがアレルゲンとなりアトピーを悪化させることも考えられます。アトピーの悪化を防ぐためにも、浴室など湿気のたまりやすい場所は乾燥を心がけましょう。
感染症にかかってしまったときの基本ケア
感染症は接触感染により発症します。感染症にかかってしまったら患部をチュビファーストやリント布などで保護し、家族やパートナー間でうつし合いをしないようにしましょう。
お風呂に入るときは、傷を悪化させないように、タオルなどでこすりすぎないようにしてください。
感染症は、人にうつす・人からうつるという以前に、自分から自分へもうつります。患部の滲出液がついた指で患部以外の肌を触って自家感染をし、症状を広げていくケースもよくあることです。なかなか治らない連鎖に陥ってしまうので、基本は「患部をカバー」と覚えておいてください。
ヘルペス対策には免疫力がものをいう
また、ヘルペスの場合は、ウイルスが感染源です。ウイルスは、ヒトやたんぱく質に寄生していないと生きられません。ヘルペスの菌自体は弱いもので、家具やドアノブなどに付着しても生きてはいけないのですが、人の傷口ではしっかり生き続けて悪さをします。ヘルペスは自然治癒もありえる感染症ですが、ステロイドを使っている限りは免疫力を下げ続けますから、自然治癒の能力を下げてしまうのは自明です。
なお、傷ややけどなどがなく、皮膚表面のバリア機能がしっかりしている人の場合は簡単にはうつりません。しかし、アトピーの炎症をステロイド剤で抑えている方の場合は、要注意。一見、炎症や掻きこわしがなくても、ステロイドを使っているのなら、見た目上は皮膚バリアが保たれているだけで、体内では免疫力が落ちた状態になっていますから、簡単に感染しまうことが考えられます。
感染症にかかってしまった場合は、絶対にステロイド剤やプロトピックなどの免疫抑制剤を使わないようにしましょう。皮膚も臓器の一つ。直接触れることができる臓器です。自ら壊すことのないように大切に扱いたいものです。
感染症は自分から自分へもうつります。患部の滲出液がついた指で患部以外の肌を触って自家感染をし、症状を広げていくケースも。なかなか治らない連鎖に陥いらないよう、基本は「患部をカバー」しておきましょう。
自然治癒もありえるヘルペスも、体の免疫力が下がっていると、簡単に感染しまうことが考えられます。感染症にかかってしまった場合は、絶対にステロイド剤やプロトピックなどの免疫抑制剤を使わないようにしましょう。
これまで述べてきたような症状から「細菌感染症かも?」「どうやらヘルペスっぽい…」など、感染症が疑われる状態になったら、大きな病院の皮膚科、またはアレルギー科を受診するのがいいでしょう。
その際、「アトピーですね」と、簡単に片づけようとする医師がいるかもしれません。いつもと状態が違うことを伝え、「細菌感染症ではないですか?」「単純ヘルペス感染症ではないですか?」と、患者側から聞いてみることも必要ですし、聞けるだけの知識を持っておくことも必要です
患者の質問や意見に耳を貸さない医師は今なおいることはいますが、そういう人に出会ってしまったらこの医師はNGだと、こちらから見切りをつけてOK。
アトピーの悪化だとして、あるいは感染症であると診断したうえでもステロイド剤での治療を強要されるようなら病院を替えましょう。時間を無駄にするのはつらい話ですが…。
「では感染症の※検査をしましょう」など、結果それが本当にアトピーの悪化であっても、患者の気持ちに寄り添おうとする優しさを感じられる医師に診察してもらうのが、患者のストレス軽減の意味から言ってもいいことでしょう。
「単純ヘルペス感染症は粘膜にしか発症しない」「単純ヘルペス感染症は一過性のものですぐに治る」など、間違った知識を持っている医師も残念ながら存在します。ヘルペスは皮膚にも発症しますし、2年も3年も出続ける場合だってあるのです。患者側が持ち込む知識を医師が知らなかった場合、「もしかしてそうなのかな」と思ったら謙虚に調べる、まじめに勉強する、そういう医師に出会いたいものですね。
なお、感染症の治療には抗ウイルス剤、抗菌剤、消毒薬などが用いられます。これらが処方された場合、医師の指示に従って使うといいでしょう。
監修者プロフィール
京都大学医学部卒業後、米国のUCLAに3年間留学しアレルギーの研究に従事。帰国後、ステロイドが、アレルギーを媒介する蛋白であるIgE産生を増加させることを海外の研究者と違う実験系で見出し、海外の免疫学雑誌に発表。IgE産生調節機構に関与している多数の海外の専門の研究者からの一連の発表で、ステロイドによるIgE産生増加は免疫学者の常識となった。
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