医療ナビ 生命にとって亜鉛がいかに重要かを知る(後編)


コラーゲン産生と亜鉛の関係を明らかにする

次の話の主役は、亜鉛トランスポーターZIP7です。深田教授らの研究グループは、皮膚における役割が不明だったZIP7が、線維芽細胞(皮膚の真皮層でコラーゲンなどをつくる細胞)に存在することに着目し、皮膚のコラーゲン産生や維持と亜鉛の関係を調べました。  
研究手法はZIP10の実験と似ています。Ⅰ型コラーゲン遺伝子が発現する線維芽細胞でZIP7を持たないマウス(ZIP7遺伝子欠損マウス)を用意し、健康なマウスと比べてみるという実験です。  
その結果は、図Cをみていただくと一目瞭然です。ZIP7 遺伝子欠損マウスの皮膚(真皮層)は非常に薄く、コラーゲン層(青色部分)も同様です。

亜鉛とコラーゲン産生

皮膚だけではありません。ZIP7遺伝子欠損マウスには、骨が弱くて変形し(骨密度低下、軟骨組織の異常)、歯が破折し(歯牙形成異常)、皮下脂肪の減少などの異常もみられました。
真皮、骨、軟骨、歯、脂肪。これらの組織は間葉系の幹細胞から分化したという共通点を持っています。 ZIP10は上皮系幹細胞でしたが、ZIP7は間葉系幹細胞の増殖や分化に関係します。同じ皮膚でも表皮と真皮では、それらのもととなる幹細胞は異なるので、上皮系幹細胞と間葉系幹細胞とでは、それぞれに関与する亜鉛トランスポーターの種類が違うのです。

亜鉛トランスポーターが細胞のストレスを緩和する

では、ZIP7は、どのように間葉系幹細胞に関与しているのか? 具体的な仕組みを調べてみると、 細胞質内にある小胞体と呼ばれる小器官で問題が起こることがわかりました。

ZIP7は小胞体に集まっているのですが、 ZIP7がなくなると小胞体がストレスを感じ、それが原因で細胞死(アポトーシス)が生じるという問題です。小胞体では、いったいどんなストレスが 生じているのでしょうか?  
小胞体は、数十億に及ぶ人体のすべての細胞質内に存在します。どんなことをしている小器官かというと、タンパク質の合成、貯蔵、輸送などの品質管理を行っています。小胞体がうまく機能するおかげで、 細胞のクオリティーは保たれているわけです。  
そんな小胞体の中では、PDI(プロテインジス ルフィードイソメラーゼ)という酵素が、つくられたタンパク質の整形を担当しています。この酵素は、小胞体内に亜鉛が増えすぎることを嫌います。亜鉛が増えすぎるとPDIたちは寄り集まり、フリーズしたような状態に陥ります。すると小胞体内には不完全なタンパク質がつくり出され、ゴミのようにたまっていきます。小胞体が感じるストレスとは、このような小胞体の環境の悪化です。  
ZIP7は小胞体内をチェックして、亜鉛が増えすぎると小胞体の外に出す(小胞体の外側は細胞質なので、結局は細胞質に亜鉛を入れていることになる)役割を担っています。ZIP7のおかげで小胞体内の亜鉛量が最適化されると、PDIはしっかり働けるのでゴミはたまらず、ストレスは回避されるというわけです。

亜鉛トランスポーターと細胞ストレス

以上の仕組みから、間葉系幹細胞でZIP7が欠損すると次のような流れが生じます。

ZIP7の欠乏で発生する流れ

亜鉛トランスポーターZIP7は間葉系幹細胞の増殖や分化に関係しています。小胞体内をチェックして、亜鉛が増えすぎると小胞体の外に出すという役割を担っています。

間葉系幹細胞でZIP7が欠損すると、小胞体に過剰なストレスがかかり、細胞死につながります。細胞死が起こると、真皮、骨、軟骨、歯、脂肪などの間葉系細胞がダメージを受けます。

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