睡眠は健康の要。しっかり睡眠を確保できれば、アトピー性皮膚炎の改善にもつながります。それはわかっていても、私たちは意外と睡眠について知らないもの。しっかり眠りたくても不眠に悩まされる方も多いはず。アトピーを改善するために知っておきたい睡眠の基礎知識を、睡眠学の内山真先生にうかがってきました。
取材・文/末村成生 イラスト/佐藤加奈子
![]() 監修:内山 真 |
アトピーを治すためには、たくさん寝たほうがいいの?
標準的な睡眠時間で大丈夫
アトピー性皮膚炎だからといって睡眠時間を特に多く確保する必要はなく、健康な人の標準的な睡眠時間で十分です。標準的な睡眠時間は、年齢差や個人差はあるものの、6時間台から7時間台あたりと考えてください。
睡眠時間についてはあとぴナビレター8月号の「理想的な睡眠時間は?」で詳しく説明しましたが、短すぎても長すぎても高血圧や糖尿病などの生活習慣病にかかるリスクが高くなります。
感染症にかかると眠気が強くなる
ところで、風邪をひいたときに、いつもより長時間ぐっすり眠れたという経験のある人は多いのではないでしょうか? 風邪など全身性の感染症にかかると、体がだるく眠気が強くなります。そして、いつもよりよく眠った後に治ってきます。昔から、肺炎になってもよく眠る人は経過がよいといわれています。
免疫機能が体を休ませている
これは、睡眠で体が休まることもありますが、体に備わっている免疫機能が関係しています。体を病原菌から防御する免疫の働きは血液中の白血球が担っていますが、白血球が主に作り出すサイトカイン(細胞に情報を伝達する役割を持つタンパク質)には、睡眠物質(プロスタグランディンD2など脳内で眠気を引き起こす作用のある物質)の働きを高めるものがあることがわかってきました。
風邪などの感染症にかかると、白血球は睡眠物質の働きを高めるサイトカインを作り出して体を休めるように促がしながら、病原菌と戦っているわけです。
アトピー性皮膚炎の患者さんは、ヘルペス(帯状疱疹)などの感染症を併発することも多いので、その場合はいつもより眠くなりやすくなるかもしれません。
眠るときにかゆくなったり、寝汗が出るのはなぜですか?
体温を下げることで脳と体は休息する
睡眠の役割は、脳を含めて体全体を休息させること。脳と体を休ませるための仕組みは実にシンプルで、身体内部の温度を下げることで休息していきます。身体内部の温度が下がると、生体内を支える生化学的反応が抑制されて、エネルギー消費量が減ります。エネルギー消費量が減ることで、脳や身体は休息できるというわけです。
体内の温度は、外部に熱を逃がすことによって下がっていきます。眠くなってぐずりだした赤ちゃんの手をさわると、温かくなっていますよね。内部の熱を逃がすために、特に手足の甲などの血管が開くため、体の表面は逆に温かくなります。アトピー患者さんが寝入りばなにかゆみを感じやすいのは、血管を開いて熱を逃がそうとする体の働きのためなのです。
寝汗は体の温度調整によるもの
睡眠中に汗をかくのも、体の温度調整を行うためです。健康な大人は眠っている間にコップ一杯分程度の寝汗をかきます。睡眠中に最も汗をかきやすいのは、眠り始めの1~2時間。この頃は最も眠りが深くなります。寝汗をかくときは睡眠が深いので、通常は目を覚ますことはありません。しかし、暑くて寝苦しかったり、体にかゆみや痛みなどの不快症状がある場合は、目を覚ましてしまうことがあります。アトピー性皮膚炎の患者さんの場合は、かゆみで目を覚ましたらすごい寝汗をかいていて非常に不快な思いをするケースが多いものです。
気持ちよく眠れる睡眠環境を作る
ここで認識してもらいたいことは、「寝汗は悪いものではなく、出たほうがよいもの」であるということ。たっぷり汗をかいて目が覚めると不快なものだから、とかく寝汗は悪者にされがちです。しかし、汗をかくこと自体は体によいことなので、汗をかいても不快を感じにくい睡眠環境づくりを心がけましょう。最近は昔よりも、吸湿性や通気性がよい寝具が手に入りやすく種類も豊富です。汗をうまく逃がしてくれる寝具や衣類を選び、暑い季節はエアコンをうまく活用して、気持ちよく眠れる環境を作ることが快眠への第一歩です。
アトピー性皮膚炎の場合、睡眠時間は多い方がいいのかというとそうでもありません。通常の6~7時間で十分です。
感染症などにかかった場合は眠気が強くなり、肺炎の場合などよく寝た人の方が回復が早くなります。
免疫機能の働きで白血球が作り出すサイトカインが睡眠物質(プロスタグランジンD2など)の働きを高めて眠らせて回復を早めます。
寝汗も通常の睡眠でかくものです。寝汗自体は悪ではないので、出てもエコアのように通気性の高い寝具やエアコンなどをうまく利用して快適な睡眠環境をつくることが大事です。