皮膚と細菌叢の関係からアトピーの新たな治療法を探る


抗菌治療の中止でリバウンド様症状が起こる

次に、離乳直後から抗菌治療を行わないグループAと治療を行うグループBに分けて、症状の推移を観察しました。離乳直後から治療を行わないグループAのアトピーマウスには皮膚炎が発症するので、10週目から抗菌治療を開始しました。一方グループBのアトピーマウスは抗菌治療の予防効果で皮膚炎が発症していませんでしたが、10週目で抗菌治療を中止しました。 その結果、グループAで発症していた皮膚炎は抗菌治療によりほぼ治まり、皮膚細菌叢は正常な状態に戻りました。一方、皮膚炎の発症がなかったグループBの抗菌治療を中止すると、正常だった細菌叢が、ほぼ黄色ブドウ球菌とC.bovis2種による異常細菌叢へと一気に変貌し、激しい皮膚炎が発症しました。

グループA、B比較表

皮膚の異常細菌叢とアトピー性皮膚炎

この実験から、次のことが考えられます。人体に住み着く菌の多様性が失われた状態をディスバイオーシスといいますが、ディスバイオーシスと湿疹の出現には密接な関係があることが分かりました。アトピー性皮膚炎の皮膚はディスバイオーシスが起きやすい状況にあり、湿疹を治すためにはディスバイオーシスを制御することが鍵となる可能性があります。
実験で使った抗生物質には、異常細菌叢を占める2種の細菌(ブドウ球菌とコリネバクテリウム)への抗菌活性がありました。したがって治療により一時的にディスバイオーシスを改善することはできますが、治療を中止したとたん一気にリバウンド様症状が出てしまいます。ディスバイオーシスの重要性を示すとともに、抗生物質による治療が根本的な方法ではないことを示しています。
ディスバイオーシスが起こった結果、黄色ブドウ球菌とC.bovisが増えて皮膚炎を起こします。しかし、なぜディスバイオーシスが起こるのかは、この実験だけでは説明できません。
研究グループは、そのヒントが癌治療で使われるEGFR(表皮発育因子受容体)阻害剤にあるのではないかと考えました。この薬で治療を行うと皮膚炎を発症しやすいのですが、実験で作ったアトピーマウスでも、EGFR が正常に機能していないことが予想されました。そこでEGFR を欠損させたマウスを作ってみると実際にディスバイオーシスが起こり、アトピーマウス同様に湿疹を発症しました。
表皮発育因子(EGF)は表皮の成長や増殖を調整していますが、この受容体(EGFR)がうまく機能しないことによってディスバイオーシス(菌の多様性が失われた状態)が起こっていたのです。低下したEGFR経路を活性化させることが、ディスバイオーシスを制御しうる可能性を示しています。

アトピーの原因をピンポイントで治療する

以上がこの論文の概要ですが、この研究成果からアトピー性皮膚炎の新たな治療戦略を考えることができます。
新しい治療方法は、表皮がディスバイオーシスに陥る仕組みをターゲットとするものになるでしょう。アダム17│ EGFR(表皮発育因子受容体)経路の異常によって菌の多様性が失われ、黄色ブドウ球菌が増殖することで皮膚炎になるという大枠は見えてきました。黄色ブドウ球菌が増える仕組みを更に詳しく究明すれば、皮膚のどの細胞が、どのような機序で黄色ブドウ球菌を増やして皮膚炎が起こるのかがわかります。それがわかれば、より特異的な経路を分子レベルで抑制する分子標的治療が可能です。
実際にアトピー性皮膚炎の分子標的治療の研究は進んでおり、海外ではインターロイキン4(IL 4)やインターロイキン13などのアレルギーに関連したサイトカインの受容体をブロックすることでアトピー性皮膚炎が改善したという報告もあります。現在は臨床試験段階ですが、アトピーの原因をピンポイントで治療する薬が実際に使えるようになる日は近いかもしれません。
永尾博士らが行った今回の研究は、ステロイド剤などによる炎症抑制という対症療法に頼ったこれまでのアトピー性皮膚炎治療を、根本的に変革する可能性を持った研究成果を示していると考えてもよいでしょう。

アトピー性皮膚炎の場合、菌の多様性が失われた状態、つまりディスパイオーシスが起こりやすくなります。

マウスの場合は、抗菌治療で炎症が抑えられたけれど人間で使えるレベルの量ではないのと、止めると炎症が再発するので現実的ではありません。

ディスパイオーシスに陥らないための研究が進めば新たな治療法が見つかるかもしれません。

実際海外ではインターロイキンなどアレルギーに関連したサイトカインの受容体をブロックしてアトピー性皮膚炎の改善につながったという発表もあります。

ステロイド剤などの対症療法ではなく、根本的なアトピー性皮膚炎の治療法が確立される日も近いかもしれません。

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