監修:安保 徹(あぼ・とおる) |
病院でステロイド剤を出されて、言われたとおりに塗ってもアトピー性皮膚炎(以下アトピーと略)が治らなくて困っている人はいまだに多いですね。患者さんの声を聞くと、ステロイド治療が長い人ほど、ステロイド剤に対する不信感が強まる傾向があるようです。
ステロイド剤は強力に炎症を抑えるのでアトピー治療にもよく使われますが、ステロイド剤を使っていてもアトピーは治らないばかりでなく、かえって悪化させていることに気づいた患者さんが増えているのではないでしょうか。
短期間だけ使うことはそれほど問題ないですが、実際はステロイド剤をやめることができず、一時中断しても結局は症状がぶり返し、長期間使い続けてしまうケースが多いわけです。すると皮膚が薄くなる、赤みが取れなくなるなどの副作用が出たり、弱い薬が効かなくなり、次第に強い薬を使うようになり、塗る量も増えていくことが大きな問題です
薬が強くなり、増えていくとどうなりますか?
薬がやめられなくなります。やめると強い離脱症状が出るからです。
ステロイド剤はコレステロールを合成して作られていますが、使い続けると皮膚にコレステロールが蓄積します。これが排泄されにくく、それ自体が起炎物質の『酸化コレステロール』に変化し酸化コレステロール皮膚炎を起こすのです。これが離脱症状の正体です。ステロイド剤を長期間使うことによってアトピーとは別の炎症が起こり、その炎症を抑えるためにさらに薬を増やし、強い薬にレベルアップするという悪循環が始まります。ステロイドの塗り薬が効かなくなると、次は飲み薬、次は別のもっと強い薬とエスカレートしていくのが今の医療。副作用のない薬はありません。長期間強い薬を使い続けた場合、副作用は非常に危険です。
離脱症状を体験して、ステロイド剤はもう使いたくないと考えている患者さんは増えていると思います
ステロイド剤などの薬剤を使った治療は、一時的に炎症を抑えるだけの対症療法で、アトピーの根本的な治療法ではありません。
ステロイドに限らず薬を使うということは、体が自力で治ろうとするステップを止めてしまうこと。体には自らを維持するための自然治癒力があります。治る過程で必要があって炎症は起きているということをまず理解してください。炎症を薬で止めてしまうのは本末転倒なのです。
炎症こそが治癒反応ということですね。
風邪で熱が出るのは、細菌やウイルスを撃退するための免疫反応です。
同じように、かゆみや炎症が起きるのは、その部分の血流を増やして体内の有害物質やアレルゲンを追い出したり、細菌やウイルスと戦おうとする体の反応です。火傷やけがも、一度腫れることで治るでしょう。体は病気やけがをすると、発熱や炎症を起こして自力で治そうとします。
この働き(自然治癒力)を妨げてはいけません。アトピーに限らず、どんな病気を治す時もこの考え方が基本です
そう考えると、ステロイド剤の離脱症状は、体にたまった酸化コレステロールを追い出すための反応ですね
そのとおり。離脱症状はアトピーの悪化ではなく治癒反応です。離脱症状で酸化コレステロールを排出できれば、やがて元の肌に戻ることができます。
治るステップを止めるという意味では、他の薬も同じですか。
例えば体内のヒスタミンという物質には、治癒反応として血管を広げ血流を増やす働きがあります。このとき感じるのが痒みです。アトピー治療でよく使われる痒み止めの抗ヒスタミン剤は、このヒスタミンの働きを抑えることによって、一時的にアレルギー反応を抑えます。しかしこれもアトピーを治すことにはなりません。
抗セロトニン剤、抗ロイコトリエン剤、今話題のプロトピックやシクロスポリンなどの免疫抑制剤、どんな薬も治るステップを止めるという意味では同じです。
免疫抑制剤を使えば免疫力は低下し、病気にかかりやすい体になります。副作用は計り知れないでしょう。
抗ヒスタミン剤を使えば、血管収縮作用で体が冷えて低体温になります。
薬を使えば治癒とは逆の方向に向かい、いつまでたっても病気そのものは治りません。