あとぴナビ2014年6月号より
取材・文/末村成生
PROFILE |
難しい環境問題を、独自のしなやかな表現で伝えてくれる辻信一さん。スローライフ、ゆっくりでいいんだよ、これらのメッセージの核心部分をじっくり深く教えてもらいました。
大量生産と大量消費を繰り返し、そのための効率化と経済成長を優先する現代社会。このような社会に順応して生きていくために、私たちは時として自分を見失うほど疲弊したり、人生の本当の豊かさとは何か思い悩むこともあります。
経済的な豊かさは、これまで私たちの生活に様々な恩恵をもたらしてくれました。しかし、このような生活をいつまでも続けていくことは可能でしょうか?
全世界の人々が先進国並みの暮らしを営もうとすれば、地球が何個も必要という話も聞きます。実際に、かなり以前から化石燃料の枯渇が警告され、エネルギーの大量消費が取り返しのつかない自然破壊を招いてきました。
スローライフはゆっくり深いつながり
これから何世代も後の未来の子どもたちに、豊かな自然あふれる地球を残すためにはどうしたらよいか?文化人類学者の辻信一さんは、スロー(slow=ゆっくり)という一つの態度をずっと提案してきました。スローライフ(生活)、スローフード(食)、スロービジネス、スロータウン。人間の様々な営みにつけられた、スローという言葉。「ゆっくりでいいんだよ」と訴えるこの言葉には、根源的で大切な意味合いがあると、辻さんは言います。「スローとは、一言で言えば“つながり”なんです。人間同士、あるいは人間と自然の深い関係性が成り立つには、常に本質的に時間がかかる。お互いを信頼したり、愛を育むにはそれなりの時間が必要なことはわかるでしょう。それは簡単に合理化・効率化できないものです。
経済の原理に従えば、逆にそういう非効率こそ効率化されるべきものです。だから全てがよりファスト(first=速い)であることを目指していく。効率化によって経済効果は上がるけれど、それと反比例するように、僕たちの暮らしの質は損なわれていくでしょう」
ゆっくり深いつながりを持とうとする態度が、スローライフの根底にあります。少し抽象的なこの言葉の真意に近づくために、辻さんが渡米していた頃の話を紹介しましょう。
マイノリティに惹かれて
「僕は20代の頃から15年間、北米に住んでいました。当時は、日本での生活にあまり魅力を感じることができずに飛び出したんです。そこで一番惹かれたのは、いわゆるマイノリティと呼ばれる人たち。ワシントンDCの黒人街や東海岸の大都市に住む様々な少数民族。あちこちにたくさんの難民が集まっていました。カナダに住んでいた頃は、先住民・インディアンの存在が常に身近でした。」
マイノリティとは社会的少数者、差別や偏見にあった社会的弱者という意味の言葉です。辻さんはマイノリティのどこに惹かれていったのでしょうか?「そういう人たちがかわいそうだと思って、一緒にいたわけではありません。彼らを助けたいということよりも、自分自身がすごく心地良さを感じ、助けられている。僕自身の幸せと非常に密接に関係していて、いったいそれは何なのかと、ずっと問い続けていました」