かゆみのメカニズムとアトピー


かゆみのメカニズムとアトピー

監修:高森 建二
監修:高森 建二(たかもり・けんじ)
順天堂大学医学部皮膚科教授
順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院院長
1941年、宮崎県生まれ。67年、順天堂大学医学部卒業。
同大学医学部生化学助手・講師を経て、77年より米国デューク大学医学部皮膚科留学。
80年、順天堂大学医学部皮膚科助手に。講師、助教授を経て、
93年より現職。医学博士。著書に「からだがかゆい!」など


アトピー性皮膚炎のかゆみは、他の皮膚炎のかゆみよりも強いといわれています。
実際にアトピーの方々がつらいと訴えるのもかゆみです。でもいったい、かゆみはどうしておこるのでしょう。
今月号では、アトピーのかゆみがどうして起きるのか、高森先生にお伺いしました。

1.制御できないかゆみはどこから来るのか?

かゆみとは一体、どこからくるのでしょうか。
アトピー肌と普通の肌の違いはあるのでしょうか。

過剰に働く防衛反応

アトピー性皮膚炎(以下「アトピー」と略す)の人はたくさんの悩みを抱えていますが、その中でも特に辛いのは「かゆみ」です。眠れないほどのかゆみが起こり、掻いてはいけないと知りつつもつい掻いてしまうと、余計にかゆくなって、血が出るまで掻いてしまったり……。「かゆみさえなければ」と願うのは、アトピーの人にとっては共通の思いでしょう。
かゆみに関しては、最近になりたくさんのことが医学的に明らかになりました。たとえば、かゆいという感覚が皮膚のどこで感じられているのかが、アメリカの皮膚科医シェリー医師によって解明されました。かゆみを起こす物質を含んだ熱帯植物のトゲを皮膚に刺してゆき、どの深さに達したときにかゆみが発生するかを調べたのです。すると、一番強くかゆみを感じる場所は、表皮と真皮の境界部分であることがわかったのです。
気温の変化や痛みを感じることは、生きていくために必要です。実は、かゆみを感じるのも人間が生きていくために必要な感覚で、肌に異物が付着した時にそれを払いのけようとする反応だと言われています。鼻に異物が入った時にくしゃみがしたくなるのと同じ反応です。アトピー肌はそれが過剰に反応している状態です。

「かゆみ」の感覚異常が掻破の原因

健康な肌は、かゆい場所を掻くと、それが痛みに変わることでかゆみが消えるのですが、アトピーの場合は掻けば掻くほどかゆくなるのはなぜでしょうか?
実は、アトピー肌は健康肌とは反対に、痛みの刺激がかゆみに変わってしまうのです。このことから、アトピー肌は刺激が伝わる仕組みに異常があることがわかってきました。
じんましんなどのかゆみは、抗ヒスタミン剤などのかゆみ止めによって止まりますが、アトピーの場合には、抗ヒスタミン剤でもかゆみが止まらないことがあります。これは、アトピー肌のかゆみにはかゆみを起こす物質であるヒスタミン以外の物質が関係しているためであることもわかってきています。
このように、アトピーの方々を悩ませてきた、かゆみに関する研究はどんどん進んでいます。

2.「かゆみ」のメカニズム

アトピー肌は普通の肌よりもかゆがりです。掻けば掻くほどかゆくなる、ちょっとした刺激でかゆみを感じる……それにはいくつかの理由があるのです。

アトピー肌のかゆみの原因

1. 免疫異常で炎症が起きやすい

かゆみの原因の一つはアレルギーによる炎症です。ハウスダスト、ダニ、花粉などが体内に侵入してくると、人間の体は免疫作用によって抗体を作ります。本来なら、これによって体内に入った異物は除去されるので、人間が生きていくためには必要な反応ですが、アレルギー体質の場合はこの作用に異常があり、真皮内に抗体が作られやすくなっているのです。このため、好酸球やリンパ球、肥満細胞などの炎症性細胞から、かゆみや炎症を起こす炎症性物質(炎症性サイトカイン)が発生しやすいのです。これらがアレルギー炎症を引き起こすため、アトピー肌ではアレルギー性のかゆみが起こりやすくなっているのです。

2. 乾燥しやすく外部刺激に弱い

いわゆるバリア異常もかゆみの原因です。アトピー肌はセラミドを主成分とする角質細胞間脂質が少なく、水が外に蒸発しやすくなっているため、肌が乾燥しやすくなっています。乾燥した肌ではバリア機能は十分に発揮されません。そのためアトピー肌は外部刺激に弱く、外部刺激はかゆみの発生部位である表皮と真皮の境界まで簡単に到達してしまうのです。同時に、アレルゲンや細菌、ウィルスなどが進入しやすくなり、かゆみの炎症も起きやすくなっています。


3. かゆみの神経線維が角層直下まで伸びている!

かゆみの刺激は主にC線維と呼ばれる細くて伝達速度の遅い神経を通って脊髄に伝わります。脊髄から大脳にその情報が伝わることで、人はかゆみを感じます。かゆみを感じるC線維の終末は健康な皮膚では、表皮と真皮の境界部分にあります(図A)。
ところが、アトピー肌の多くはかゆみを伝える神経線維が境界線を超え、角層直下の部分まで伸びています(図B)。皮膚が乾燥すると、表皮にあるケラチノサイトという細胞から出る神経成長因子(NGF)が増え、神経線維が伸びるためです。乾燥肌は肌のバリアーが破壊され、外部刺激を受けやすい状態になっているので、伸びた神経が過敏になり、かゆみを感じやすくなってしまっているのです。
正常な神経の状態にするためには、継続してスキンケアを行うことが必要です。


健康成人とドライスキンの皮膚の比較

4. その他のかゆみの因子

多因子性の疾患といわれるアトピーには、かゆみを引き起こす要因がたくさんあります。
ストレスは、かゆみの原因となるヒスタミンの血中量を増加させるため、かゆみの原因となります。
体温の上昇もかゆみの原因になります。これは、温度が高いほうが神経伝達の速度が速くなるためです。運動をしたり、お酒を飲んだり、熱いお風呂に入ったりするとかゆみが増すのはこのためです。寝る前にかゆくなるのは、体温が上がっているからです。
また、アトピー肌は、汗腺が詰まって汗が出にくくなっています。そのため汗による放熱作用が起きません。その結果体温が上がり、詰まった汗が皮下で刺激になってあせもやかゆみの原因になります。

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