心療内科で見る心・体・アトピーの関係


3.アトピー患者に多く見られる4つのタイプ

心の状態でかゆみが左右されているとしたら、どんな心がかゆみを生み出しているのでしょうか?アトピーの患者さんの代表的な例を元に考えていきましょう。

タイプ1:心の状態がアトピー症状に関係していることに気づかない


かゆみがひどくなった時やイライラして掻き壊してしまった時、あなたはどんなことを考えていますか? 
つらい症状が続けば、心に余裕を持つことは難しくなります。かゆみのために何も考えられないこともあります。症状が重くなればなるほど、自分の心の状態を客観視できずに、心と体の「関係性」に気づくことは難しくなります。
しかしそのことに気づかないままだと、つい無理をして症状が悪化するという悪循環に陥ってしまいます。自分はどんな時にかゆくなるのか?
掻く前後はどんな気持ちでいるのか?冷静に正直に見つめてみてください。症状が悪化しているときの心身の状態や環境を思い返してみると、今までの人間関係や自ら押し殺していた感情と、今の症状との関わりが見えてくるかもしれません。

タイプ2:周囲に過剰適応する「よい子」「いい人」はストレスをためて症状を悪化させる

幼少の頃や思春期にいわゆる「よい子」で反抗期があまりなかった人は、大人になっても温和で怒りなどの感情を表に出さない「いい人」であることが多いようです。特に両親が厳格な家庭で育った人は、両親の愛情を得るために「よい子」として過剰に適応しようと努力し、大人になっても同じように努力する傾向が身についています。
このようなタイプの人は、職場でも感情を抑え、無理な仕事でも頼まれるとつい引き受けてしまいがちです。その結果ストレスや過労を蓄積していきますが、本人は気づいていない場合がほとんどです。人間には光と影の部分があります。
自分の怒り、憎しみ、妬みなどの影の部分を隠さないことも、非常に大切です。光の部分だけを表に出して、影の部分と分離させていると、生きていくのがきつくなるからです。

タイプ3:感情表現が苦手なためにかゆみで感情を表現する

心身医学には失感情症(alexithymia)という言葉があります。心身症特有の病態で、感情がないわけではなく、自分が持っている感情に気づきにくく、感情をうまく言葉で表現できない状態にあります。アトピーの患者さんの場合、怒りや葛藤などのさまざまな感情を無意識にかゆみで表現してしまうのです。
このような傾向をもつ人は、大抵の場合、小さい頃に両親との意思疎通がうまくいっていません。親の愛情が足りないと感じる子どもは、掻くことで親の気を引こうとする場合もあります。そのまま大人になると、感情を言語表現できないことがストレスとなり、アトピーの心理社会的因子となることもあります。子ども時代から自分の気持ちを表現し、親に受け止めてもらうことは、健康な心身を育てるために大変重要であることがわかります。

乳幼児期

母子のキャッチボールによるコミュニケーションに問題があることが多い ヒトが初めて関わりを持つ相手は母親です。

人間の五感に関わる器官で、最初に発達するのは皮膚。人は胎児から皮膚を通して母親とのコミュニケーションを開始しています。コミュニケーションとは、キャッチボールのようなもの。キャッチボールは双方向的で、一方が投げた球を相手が受け取って投げ返します。投げる球は言葉とは限りません。
身振り手振りでも、笑顔や表情だけでも、発達段階に応じたキャッチボールが可能です。乳幼児期は、母親の愛情を受け取ることによって、世界との関わりを少しずつ感じ取り、学んでいきます。母親とコミュニケーションすることによって、将来生きていくためのコミュニケーション能力を身につけ、やがて自立して一人前になります。
しかし、乳幼児期の何らかの要因が母子コミュニケーションの障壁となる場合があります。子どもにアトピーが発症している場合、生活全体がアトピー治療中心となり、皮膚のケアが主なコミュニケーション手段となってしまうと、キャッチボールに問題が生じることがあります。
周囲から十分なサポートが受けられず、アトピー治療と子育てに疲弊した母親が、スキンシップや言葉がけといった十分なコミュニケーションを行えない場合もあれば、かえって過保護になる場合もあります

思春期—成人

親子関係の問題が社会での人間関係のストレスやアトピーにつながる人にとって乳幼児期の母子関係は、生きていく基礎となるものです。

人間の五感に関わる器官で、最初に発達するのは皮膚。人は胎児から皮膚を通して母親とのコミュニケーションを開始しています。コミュニケーションとは、キャッチボール乳幼児期の母子のキャッチボールが不十分で、子どもが十分に愛情を受け取れなかった場合は、自分の皮膚を掻くことを、母親へのコミュニケーション手段としてしまう傾向があります。愛情が欲しいという意思表示が、掻破行動として表現されるのです。
逆に負い目を感じた母親は、子どもに対して過保護になったり、急接近して関係を修復しようとします。これが思春期や青年期の自立願望の時期と重なると、事態はより複雑です。子どもとしては、今まで渇望していた母の愛情を得られる反面、育ってきた自立心に介入されることに反抗したいという葛藤が生まれ、親子関係がストレスになります。アトピーが重症化し、家にとじこもりがちになると、ますます親からの自立が難しくなることもあります。
こうして成人の段階になっても母子分離がうまくいっていないと、社会に出たときの人間関係全体がストレスになります。子どもは生後数カ月からすでに親から自立しようとする心を持っており、この頃から母子分離は始まっていることを知っておくことも大切です。そこで、海外生活を始めたり、入院して親から離れることで、症状が改善することもあります。
このように、人の成育史をたどっていくと、母子関係がストレスとなってアトピーに影響するという心理社会的因子は、大変根深い問題であることがわかります。

4.気づきから治療へ

この特集では、心療内科の概要とエッセンスを伝えてきました。心療内科の考え方は、アトピー治療に非常に効果的です。そこから私たちが学べることはどんなことでしょうか?

心の奥に潜む問題に気づくことが治療への道


心療内科からのメッセージとして最重要のキーワードは「関係性」。「心—体」、「患者—家族」、「社会—病気」、などさまざまな関係性を、分離できない全体として診ていくことが、心療内科の基本姿勢です。特に心と体の関係に気づくことが重要です。からだに現れた症状は、心の叫びを病気という形で表現しているのです。
考えてみれば、これは大変ありがたいことです。病気は私たちの日常生活に警鐘を鳴らし、心の奥に潜む問題への気づきを与えてくれるのです。

アトピーには、全人的な治療が必要

心療内科による医療は、心と体を別々に診るという心身二元論的な近代西洋医療とは異なり、心身一如の全人的な医療を目指しています。「全人的医療」とは、病気のみを診るのではなく、病気である患者自体に焦点を当てた医療で、精神・身体・社会・環境・行動といったあらゆる関係性を分離できないものとして捉えています。
アトピー性皮膚炎に関しても、全人的医療という視点は欠かせません。心の問題、症状の現れ方、家族や会社での人間関係、遺伝的要因、生活環境、食事、ライフスタイル、掻破行動のコントロールなど、どの問題も切り離して考えることはできないからです。

心療内科の治療とは

心療内科を訪れるアトピー性皮膚炎患者は、難治性の方がほとんどです。治療は皮膚科医と連携して行っていきますが、治療の一例を紹介します。
関西医科大学心療内科では、最初に絶食療法を行います。入院して面会をストップし、10日間の完全絶食を行い、次の10日間は回復食をとります。もちろん薬も絶ち、身体を白紙の状態に戻すのです。こうして心身ともに揺さぶられると、多くの場合一時的にコルチゾールの分泌が高まり、ステロイドを塗らなくても症状が改善します。身体をこのような状態にしたうえで、自分の成育史を振り返り、自己洞察に導く内観療法やかゆみをコントロールする認知行動療法、カウンセリングを行い、心の奥底にある根本の問題を探っていきます。必要に応じて皮膚科治療も併行・継続していきます。
冒頭でお話したように、心療内科を標榜しているほぼ九十パーセントは精神科医といわれるのが実情です。残念ながら、多くの患者がアトピー性皮膚炎をしっかり診てくれる心療内科医にめぐり合うことは、現状では難しいと言わざるを得ません。「心療内科」で治療する場合は、必ず内科医として身体症状を診ることができ、心身医学に基づく治療を行う病院を受診することをおすすめします。理想としては、心療内科的心得のある心身医学に基づいた皮膚科医を探すことではないでしょうか。

アトピー性皮膚炎の方によく見られる4つのタイプがあります。「心の状態がアトピー性皮膚炎に関係していることに気づかない」、「よい子、いいひと」、「感情表現が苦手」、「親子関係がストレス」などがあります。

親子関係、特に母親との関係性がストレスとなってアトピー性皮膚炎となる場合もあります。

心の叫びは病気という形として現れます。ですからアトピー性皮膚炎の場合、体だけでなく人間関係、遺伝、生活環境などに目を向けることが大切です。

診療を受ける場合は、内科医として診ることができ、心療内科医としての心得がある皮膚科医にかかることが望ましいでしょう。

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