2013年11月、イギリスの有名な学術雑誌「ネイチャー」に、感染症に関する新たな発見といえる研究論文が掲載されました。本誌でおなじみのアレルギー専門医・木俣肇先生は、この論文を「画期的」と評価しています。
感染症は、アトピーの大きな悪化要因。特にステロイド剤の離脱症状を乗り越える際には、感染症対策が大切です。最先端の研究成果を踏まえながら、感染症の対策と予防について考えましょう。
nature ネイチャー誌に掲載された記事 (2013/11/21)
Staphylococcus δ-toxin promotes mouse allergic skin disease by inducing mast cell degranulation 「ブドウ球菌が産生するデルタトキシン(毒素)は、肥満細胞を活性化しアレルギー皮膚炎を誘発する」本論文では、黄色ブドウ球菌から出るデルタトキシンという毒素が、肥満細胞の脱だつ顆か粒りゅうの誘因因子であることが同定された。 ● IgE抗体が関与することで脱顆粒は数倍増える。 ● アレルゲン(抗原)がなくてもIgE抗体が存在するだけで脱顆粒が増える。 ● 黄色ブドウ球菌がIL4(インターロイキン4=IgE抗体を増やす働きがある情報伝達物質)を増やす。 ![]() β-ヘキソサミニダーゼは肥満細胞が脱顆粒を起こすときに放出される酵素。 この酵素が増えることにより、脱顆粒が増えていることがわかる。 |
アトピー肌に多い黄色ブドウ球菌
人間の皮膚には、表皮ブドウ球菌や真菌類などの様々な菌が存在しています。これらの菌のほとんどは通常は無害ですが、やっかいな問題を起こす菌もいます。
その代表といえるのが黄色ブドウ球菌。皮膚における感染症の原因となる菌ですが、すべての人の皮膚に存在するわけではありません。
しかし、アトピー性皮膚炎の場合は、90%以上の人に黄色ブドウ球菌が認められます。特に炎症部分に定着していることが多く、症状がひどくなるほど量が増える傾向があります。
黄色ブドウ球菌の毒素が炎症反応の原因だった
2013年11月、イギリスの学術雑誌「ネイチャー」に、黄色ブドウ球菌とアトピー性皮膚炎に関する非常に興味深い論文(下記コラム参照)が掲載されました。
論文では、黄色ブドウ球菌から出る毒素(デルタトキシン)が、直接的に肥満細胞を刺激することで炎症が起こるという事実が、様々なデータにより示されています。この論文の画期的なところは、IgE抗体(アレルギー反応を起こす免疫細胞)を介する免疫反応がなくても、黄色ブドウ球菌から出る毒素が直接肥満細胞を刺激し、皮膚の炎症が起こることが分かったことです。つまり、アレルギー反応を起こさなくてもアレルギー的症状(炎症など)が起こってしまうのです。
もちろん、アレルギー反応によっても炎症は起こります。これは以前からわかっていたことですが、黄色ブドウ球菌がIgE抗体を刺激すると肥満細胞が反応し、かゆみの原因となるヒスタミンなどが出るからです。
アトピーの炎症は二つのルートから生じていた
ネイチャー誌の論文から読み取れることは、皮膚に黄色ブドウ球菌が多いと、二つのルートにより皮膚に炎症が起こる可能性があることです。
このことから「アトピー性皮膚炎は、ルート1とルート2の炎症が重なった状態である」といえます。したがって、アトピー性皮膚炎の治療(特に感染症の併発とその予防)でまず大事なことは、黄色ブドウ球菌が皮膚に定着することを防ぐことです。
感染症というと、ヘルペスやカポジのように皮膚がジュクジュクした状態を思い浮かべます。しかし、感染症にはみえない状態でも、黄色ブドウ球菌が定着していることが多いので注意が必要。アトピー性皮膚炎の皮膚はバリア機能が弱いので、黄色ブドウ球菌の毒素が入り込みやすく、定着が進めばやがてひどい炎症につながります。
黄色ブドウ球菌などの感染症を治療する際、消毒や抗菌薬などを使用します。また、完全に黄色ブドウ球菌を取り除くことはできませんが、日常的な心がけとして、皮膚を適度に洗って清潔にしておくことも大切です(ただし、洗いすぎないようにしましょう)。
アトピー性皮膚炎の方の90%の場合黄色ブドウ球菌が認められます。
最近の研究で黄色ブドウ球菌から出るデルタトキシンが肥満細胞を直接刺激して炎症を引き起こすことが分かってきました。
これまではIgE抗体を媒介としたアレルギー反応の考えられていたが別のルートが存在することが分かってきました。
皮膚のバリア機能が落ちていると黄色ブドウ球菌の毒素が皮膚に入りやすくなるために皮膚のケアが非常に大事になります。