遺伝子とアトピー

監修:白川太郎 先生

「アトピー遺伝子」の研究最前線

遺伝子を解析してそれを医学の発展に役立てようとする試みは、国際的な願望です。なかでも難しいとされているアレルギー疾患で大きな発見がありました。

アトピー性皮膚炎には、遺伝子が複雑に関わっている

アトピー体質が単純に垂直遺伝するとしたら、両親ともにアトピー体質の場合、子供もそうなる確率は計算上では5割となります。
しかし、実際には、両親がアトピー体質だと7割の子供がアトピー体質になっているわけですから、計算上の数値よりも高くなっています。
これは単純な遺伝以外に複雑な要因がかかわっているから。
アトピー体質の遺伝は単純には説明できないのです。実際にアレルギーテストをしてみると、複雑な事例がたくさん出てきます。たとえば、親子ともにアレルギー反応があるのに、親はダニの抗体を持っていて、娘は猫の抗体はあってもダニの抗体は持っていないというような例がたくさんあるのです。
こうしたことが起きるのは、アトピー体質の遺伝には、多くの遺伝子が関与しているからだと考えられています。
一つの遺伝子だけでは説明できません。ですから、たとえ三世代にわたる家系図があったとしても次の子供がアトピー性皮膚炎になるかどうかは予測ができないのが現状です。

ぜんそくの研究からアトピー性皮膚炎の遺伝子解明へ

2002年、理化学研究所の遺伝子多型研究センターアレルギー体質関連遺伝子研究チームは、アトピー性皮膚炎と関係が深いと思われるSNPの存在を確認しました。このようにアレルギー疾患でSNPを特定したのは世界で初めてのことです。
でも、実はこの発見は、ぜんそくの遺伝子を解明しようとする研究の中から誕生したものでした。この研究は、ぜんそくの患者とそうでない人の遺伝子のSNPを、それぞれ10万ヶ所ずつ調べることによって、両者の差を統計学的に明らかにしようというもの。
まず100人の患者のSNPを調べることから始められ、最終的には1000人を超えるぜんそく患者のSNPを調査しました。ハイテク機器を利用しても解析に1年間かかる大変な研究の結果、ぜんそくとの関連が深い30〜40個のSNPが見つかったのです。
そしてこの実験には副産物がありました。この実験で最初に調査対象となった100人のうち、ちょうど半分の50人がアトピー性皮膚炎を併発していました。
これによってぜんそくでアトピー性皮膚炎を併発している子供とそうでない子供の比較ができたのです。この結果、ぜんそくでアトピー性皮膚炎を併発している子供のSNPが解析でき、アトピー性皮膚炎の遺伝子研究は大きく前進しました。

アレルギー治療の未来

アトピー性皮膚炎関連遺伝子が発見されれば、アトピー性皮膚炎の遺伝子治療への道は開けるのでしょうか。
遺伝子時代のアトピー性皮膚炎治療の展望を知っておきましょう。

アトピー性皮膚炎の遺伝子治療は時期尚早

アトピー体質とアトピー性皮膚炎の発症には何十個ものSNPがかかわり合っていると考えられています。
しかし、もしすべての関連SNPが解明されたとしても、遺伝子治療がすぐに可能になるわけではありません。遺伝子治療では正常に働く遺伝子を正常な組織の正常な場所に送り込み、正しく働くようにコントロールできなければ意味はありません。
現段階では、少なくとも21世紀中に遺伝子治療が可能になることは期待できないと考えられています。
ただし、最重症患者のもつどれかひとつのSNPが、劇的な症状の発症に関わっているとわかっている場合に限っては、遺伝子治療も有効かもしれません。
しかし、遺伝子が複雑にからまって起きる生活習慣病において、遺伝子治療は現実的にはまだ無理です。ライフスタイル要因を改善するほうがより高い効果を期待できます。

環境・ライフスタイルと遺伝子との相関

ではなぜアトピー体質の遺伝子を調べるのでしょうか。同じようにアトピー性皮膚炎を発症している人でも、個々のSNPはみんな違います。しかし、部分的には同じであることは十分可能性が高いのです。
たとえば3つのSNPの配列が同じ人が二人いたとします。一人はタバコを吸い発症しており、もう一人はタバコを吸わなくて発症していない。
遺伝子の研究でこれが突き止められれば、この人と同じSNPの配列を持った人は発症要因となっているタバコを吸わなければ発症しないということになります。
同じように調べると、ペットを飼ってもアトピー性皮膚炎にはならないSNPの配列がわかるようになる可能性もあります。ここに遺伝子を調べる意味があるのです。
つまり、このように遺伝子の分類ができると、このパターンの人にはこの治療法が有効であるようだとかこのパターンの人にはこのような生活改善が効果的だなど、データが整理されるようになります。
そうすることで極力無駄の少ない効果的治療の選択が可能になり、より健康管理の確実性が増すわけです。
遺伝そのものはコントロールはできませんが、近い将来、遺伝子の解明によって、発症の予防や症状の改善がより効果的に行われるようになることが期待されています。

iden3

遺伝子の研究は、直接の治療に対するものだけではなく、こうした「予防」に関わる因子を見つける研究にも役立つのですね。

この記事を評価する
残念もう一息普通参考になったとても参考になった 評価 : 3.00 投票1人  
Loading ... Loading ...

コメントを残す







次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>