医療ナビ 「病は気から」を科学する


病は気からを科学する

炎症は体を守る免疫反応

アトピー性皮膚炎の湿疹・かゆみは、皮膚の炎症によるものです。かゆみは辛いものですが、炎症は本来体を守ろうとする免疫反応により起こります。
例えば、蚊に刺された際、体は蚊の唾液を異物とみなし排除します。免疫の働きで刺された部分の血流を増やし、免疫細胞が集まって炎症を起こすことで、異物を処理しているのです。
蚊に刺された場合は、免疫機能が正常に働くと、炎症はそのうち収まりかゆみもなくなります。
ところが、免疫の働きをオフにできないまま低レベルの炎症が長く続くことがあり(慢性炎症)、そんな場合は病気の発症につながってしまいます。

炎症の慢性化が病気をつくる

本来は体を守るはずの炎症という働きが、低レベルで慢性的に続いてしまう。このことが、がんやメタボリック症候群などの様々な生活習慣病、自己免疫疾患、アルツハイマーやパーキンソン病などの神経変性疾患、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患といった多様な病気の引き金となります。つまり、ほとんどの病気は「炎症」に関わっているということです。
病気になる仕組みを解明するために、「いかにして炎症が生じるか」を研究してきた村上教授らの研究グループは、2008年に「炎症回路」のメカニズムを解明しています。炎症回路とは、炎症が慢性化するしくみを分子レベルで解明したものです〈図A〉
この発見の意義は、がんや関節リウマチなど慢性炎症疾患の新たな治療法の可能性を広げたことにあります。

炎症が慢性化するしくみ

炎症の仕組みを解き明かす

炎症回路発見の3年前(2005年)、日本で関節リウマチの新薬が生まれました。それまで、関節リウマチは慢性的に悪化し続ける難病とされてきました。しかし、新たに開発された新薬(ヒト化抗ヒトIL─6受容体抗体)は画期的効果をもたらし、関節リウマチ患者に福音をもたらしたと評価されています。
この薬は、関節リウマチ患者の髄液中にIL─6(インターロイキン6)という炎症と関連するサイトカインが非常に多いことに着目して開発されました。
サイトカインとは、様々な細胞に合図を送る働きのあるタンパク質の総称。IL─6というサイトカインには、細胞に炎症を起こすよう合図する働きがあると考えられたので、この働きを遮断することで、関節リウマチの痛みや腫れを消すことができたのです。
関節リウマチ患者にIL─6が多いことは、もっと前(1988年)からわかっていました。しかし、なぜIL─6が炎症を誘導するかのしくみは、新薬ができてからもずっとわからないままでした。そして炎症回路の発見が、この仕組みをスッキリ解明してくれたのです。
仕組みがわかれば、さらに精度の高い薬の開発が可能となります。例えば、「炎症回路のこの部分ががんを悪くしそう」ということなどがはっきりしてきており、新薬の研究が進んでいるそうです。

免疫と神経のつながりをみる

炎症回路は、病原性の活性化ヘルパーT細胞などの免疫細胞に、サイトカイン、増殖因子、神経伝達物質など様々な液性因子が刺激剤として働く複雑な仕組みです。
この部分だけをみると免疫系の話に思えますが、実は、炎症回路が神経系により局所的にコントロールされていることも、村上教授らの研究が明らかにしています。
免疫系と神経系を横断する研究は、1920年代頃から進められてきました。ストレスなどが引き金となり、脳( 視床下部)の指令により交感神経が活性化して、免疫や炎症反応を制御する副腎皮質ホルモン(ステロイド)が分泌されるという話を聞いたことがある方も多いと思います。
これまでの神経科学では、「神経系のスイッチが入ると副腎からホルモンが分泌される」といったような、全身レベルの研究が大多数でした。
しかし、村上教授らの研究において、特定の神経活動が局所的に免疫系をコントロールしている実態が、分子レベルで解明されてきました。つまり、もっと細分化されたレベルで炎症や病気が生じる仕組みが解明され始めたのです。その仕組みを、ゲートウェイ反射(Gateway Reflex)といいます。

体を守るはずの炎症が低レベルで慢性的に続くと、がんやメタボリック症候群、自己免疫疾患、アルツハイマーやパーキンソン病などの神経変性疾患、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患といった病気を引き起こします。

炎症が慢性化するしくみを分子レベルで解明したものが「炎症回路」で、新たな治療の可能性が広がった病気もあります。もっと細分化されたレベルで炎症や病気が生じる、ゲートウェイ反射というしくみが解明されてきました。

この記事を評価する
残念もう一度普通参考になったとても参考になった まだ評価されていません
Loading...

コメントを残す